2012年4月30日月曜日

細胞老化とアンチエイジング(第一話)

ヒトを含めた動物の体の老化は、部品である細胞の老化、臓器等の器官の老化に起因するため、細胞の老化のしくみを理解することが、ひいては体の老化のしくみを理解することにつながる。

私は細胞の老化に深く関与する遺伝子(TOR、トル)を研究しているため、細胞老化に関しても関心をもっている。

それだけではなく、純粋になぜ生物は老いて死ななくてはならないのかという、生物の老化・寿命の合目性に興味がある。

上記のTORの働きを部分的に抑制してやると生物の寿命が延びる。これは、単細胞生物である酵母から哺乳類(ネズミ)まで実験的に確かめられている現象である。TORの活性を低下させる化合物ラパマイシンはネズミの最大寿命を延ばす。残念ながらラパマイシンには免疫抑制の副作用もあり、人においてアンチエイジングのサプリメントとしての販売はない。

まだ見つかっていないだけで、TOR径路以外で同様な働きをする遺伝子がまだ他にあるかもしれない。
逆に活性化する事で寿命が延びるとされる遺伝子にサーチュイン/Sirtuinがある(これには異論もあるが)。

このことは、今の生物の寿命がマックスになっていなくて、ある遺伝子の働きにより最大寿命からわざと短くなっていることを示唆する。

これが、老化、寿命が予め積極的に決められているとする、老化のプログラム仮説の一つの根拠ともなっている。


それを考慮したとしても、最大寿命というものがあることには変わりない。

細胞は活動をしている間、その間生ずる副産物である活性酸素によってタンパク質や脂質等の細胞内の部品が常に酸化され劣化していき、細胞の活動度そのものが低下する。

これは以前から提唱されている活性酸素により不可避的に細胞は老化するという活性酸素仮説である。活性酸素による細胞ダメージが細胞寿命の上限を設定している。これはさまざまな研究から恐らく正しい見解である。

そこからは、細胞中の活性酸素そのものを減らせば細胞のダメージの蓄積を遅らせることができるという至極当然な推論が得られる

その観点からのアンチエイジングサプリがビタミンC, Eやカテキンである。

カテキンの効能についてはまた別の機会にゆずる。


哺乳類で調べたところ、寿命の長さと、細胞中の活性酸素を消去するSODという酵素の活性との相関があった、という面白い研究がある。

この事実から、SODの高い活性が動物の長い寿命の必要条件である、ということが推論される。勿論、SODは沢山ある必要条件の一つに過ぎないであろうが。

SODを人為的に過剰発現させた酵母では細胞寿命がある条件では延びることから、そのような細胞ではSOD活性が足りていないためにそのような寿命に留まっていると言えよう(こういう実験は、条件で結果が変わるから、解釈は慎重にしなくてはならない)。



なんにせよ、上記の事実から、細胞はもっとがんばればもっと寿命が延ばせる(のでは?)、ということが見えてくる。

つまり、細胞は最大限寿命をのばそうと努力していないようなのである。これは恐らく正しい推論である。

つまり(が続くが)、敢えて細胞は今の寿命でよいと思っている。ということ。

ここから見えてくるのが、ある程度の寿命があれば十分だと細胞が考えている節がある。
寿命を最大限に延ばそうと努力するくらいなら、違うところに投資しますよ、的な意図が透けて見える。


つまり、細胞はなぜある寿命で十分だと割り切っているかのか。それがわかれば、細胞に寿命があることの合目性が分かる。果たしてその合目性とは?


この続きは次回。

コラーゲン、効く? 効かない??

生物学をあまり勉強して来なかった大学一年生に以下の問題を出す。

1. コラーゲン入りの飲料
2. コラーゲン入りの化粧品

このうちどっちが効く?

と。

その前提として、コラーゲンは何にいいか? 勿論、お肌にいい、と漠然と答えが帰って来る。突っ込んで訊くと、肌のはりとかにいい、と答えを引き出せる。

つまり、コラーゲンを摂取することで自分のお肌にコラーゲンがふえお肌のはりを増加させる事を消費者に期待させる商品が1もしくは2ということになる。

コラーゲンは細胞中にあって肌の弾力性をもたらしている物質であり、年齢とともに失われるものでもあり、それが肌のはりの喪失をもたらすことは正しい。

しかし、コラーゲンがどんな物質なのか? は敢えて先には質問しない。

そこで、上記の質問。

お肌の保湿成分入りのクリームとかの類推で2.に関しては効きそう、と答える学生がいる。

1.に関してもビタミンCとかの類推で効くのではとの答えもある。


正解は、どちらも上記のような効果は期待できない。

なぜならば、コラーゲンはタンパク質だから。

コラーゲンはwikiに構造が書かれているが(http://ja.wikipedia.org/wiki/コラーゲン)、紛れもなくタンパク質である。

タンパク質は簡単に言えばアミノ酸が紐状に連結した物質である。小中学生の頃に「食物中のタンパク質は胃や腸で分解されてアミノ酸になり体に取り込まれます」と習うが、これを思い出せば、タンパク質がアミノ酸からできていることは合点がいこう。

この「食物中のタンパク質は胃や腸で分解されてアミノ酸になり体に取り込まれます」さえ押さえておけば、まず、1.では取り込まれたコラーゲンが自分の肌細胞のコラーゲンに即ならないかが分かる。つまり、口から取り込んだコラーゲンは消化管で分解されアミノ酸になってしまうのだ。

全ての動物は、口から取り込んだタンパク質を消化管で一旦分解して、その分解されたアミノ酸を細胞が取り込んで、そこで細胞の働きに合ったオーダーメイドのタンパク質を再構築するわけだ。

だから肉を食べたからといって、その肉成分のアミノ酸が全て筋肉になると期待するのは間違い。
必要とする以上の筋肉タンパク質を細胞は作ってくれない。

これはコラーゲンでも同じ。

コラーゲンを食べたからといって、自分の細胞のコラーゲンがその分増えると期待するのは間違いなのだ。魚を食べて人魚になれると信じ込むのと同レベルの過ちと言っても良い。


あるサイト(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1474457824)には、コラーゲンにはヒドロキシプロリンという特別なタンパク質が含まれているため、コラーゲンの材料をとることに意味がなくはない、的なコメントがあるが、それは正しくない。

タンパク質を合成する際、ヒドロキシプロリンは使われない。プロリンが材料として使われてコラーゲンが組立てられた後に、プロリンが変化してヒドロキシプロリンになる。つまり、ヒドロキシプロリンを摂取してもそれが直にコラーゲンに使われることはないのであるから、ヒドロキシプロリンの効果を唱うのは詐欺に等しい。

*なお、ヒドロキシキプロリンはプロリンに素直に戻るというわけではなさそうである。
(参考:http://yoshibero.at.webry.info/200803/article_2.html


では2なら肌細胞にぬっているし、細胞内部に直接届くのか?

これも残念ながら細胞内部には届かない。細胞には細胞膜というバリアがあって勝手に外部から好ましくない物質が入って来ないようにしている。当然、この「好ましくない物質」という中には病原菌も含まれている。あまり何でも取り込んだらそれこそ細胞にとっては危険きわまりない。

基本的に、細胞中に存在するタンパク質は自分の遺伝子から合成されたもののみである。細胞の外部からタンパク質がやってきても容易には侵入できない。

つまり、たとえ鮫のコラーゲンがどんなに鮫にはよくても、外部から塗られた鮫のコラーゲンがヒトの細胞中で働く事は期待できないのである。さらに言うと、鮫のコラーゲンのタンパク質はヒトのコラーゲンのタンパク質とはアミノ酸の配列が異なるため、鮫のコラーゲンを取り込んでヒトの細胞内で働いてもらおうとしてもダメである。

分かりやすいたとえをするなら、

牛肉(ウシの筋肉のアクチンとミオシンというタンパク質を豊富に含む)を肌の上にペタと湿布薬のように貼ったら、ウシの筋肉がからだに装着されて、筋肉増強できるか? を想像してみよう。

これを細胞(生物)が許せば、容易にヒトは半人半牛に変身、トランスフォームできる(笑)

それが可能なら私は背中に鷲の羽根をとりつけてみたい(笑)

このたとえの愚を笑えるならば、コラーゲン入りの化粧品を肌に塗る愚に思いを馳せられるはず。

コラーゲンを肌に塗るのは、牛肉を肌に貼るのと同じこと。


いつまでも若々しくいたいという女性の純粋な心理、消費者の無知、につけ込むようなさもしい商品が売られていること、特に大手有名企業(検索すればそのような心ない有名企業の名前を参照できる)から売り出されていることに落胆する。


コラーゲンたっぷりなもつ鍋、もしかり。


こんなことに一々目くじらを立てるなんて大人げない、と関係者達は言うだろうか。

こちとら、それを百も承知で夢を売っているのだ、と開き直るのだろうか。


消費者をアホ扱いしている商品の代表格として、今回はコラーゲンを採上げた。

(補足)
細胞にコラーゲンが必要なのはその通りであり、食事から摂取できるタンパク質で自分の細胞にコラーゲンを作ってもらえばよい。コラーゲン自体を摂取しても期待される効果はないと言うだけの話し。

細胞でのコラーゲンの合成(転写もしくは合成後のヒドロキシプロリン化)を促すような(副作用のない)化学物質があれば、これこそ細胞中のコラーゲン増量に効くと言える。

ヒドロキシプロリン化の際に必要となるビタミンC(アスコルビン酸)を摂取することで、コラーゲン合成促進するというのは有り得そうだが、効果のほどはいかばかりなのかは調べ切れず。 

まあ、ビタミンCは抗酸化剤としても細胞の酸化(老化)防止に効くわけだし、取り過ぎても尿といっしょに排出され副作用はあまりないというし、ビタミンC摂取は心がけるにしくはなし、と言ったところか。




2012年4月28日土曜日

朱鷺の誕生

野外でトキに36年振りに雛が誕生したという。慶事であることは間違いない。

北米でアメリカンバイソンが復活したように、是非トキもそうなって欲しいと思う。

片やヒトは今や70億人。

食糧問題を考えるに、近未来ちゃんとソフトランディングできるか、かなり心配。

日本は少子化による人口減と言えども、他国からカロリーベースで食糧の多くを輸入している身としては、上記に備えて、このアキレス腱を早期に是正しなくてはならない。