遺伝学、分子生物学、細胞生物学を駆使して、生命科学者はこれまで多くの生物の仕組みを明らかにしてきた。
しかし、それを持ってしても脳の構造・機能は未だ解き明かされない。
「睡り」についても脳の命令で起こるのであるが、なぜ睡りが必要なのか、すら未だに分かっていない。眠っている間は生物は無防備になり捕食者にも襲われる。それを補い余りあるメリットがあると考えられている。
例えば、起きている時に脳神経細胞中に溜まる老廃物の除去等を睡眠中に行っていることを示唆する研究が報告されている。しかしそれが行われない場合にどのような障害が起きるか等は示されておらず、それがどのくらい重要であるのか、また、未発見の他のイベントもあると予想され、まだ確かなことは分からない。
筆者はまだ完徹をしたことはない。
夜はすぐに眠くなり、夜遅くまで起きていることができない。
ロングスリーパー、とまではいかないが、とにかく睡眠が6時間を切ると辛い。
ある生物学イベントの仕組みを明らかにする場合は、
(1)そのイベントが異常になった変異体を発見し、
(2)どの遺伝子が異常になったかを明らかにし、
(3)その遺伝子の働きを明らかにする(イベントにどのように関わっているかを明らかにする)、
という手順を踏む(これを遺伝学的手法と言う)。
オートファジーに関わる遺伝子を発見してノーベル賞を受賞した大隅良典先生も同じ手順を踏んだ。
ここ(睡り)でも研究者はこの遺伝学的手法を用いた。
睡りが異常になるマウスを8000匹から睡りが短くなるマウスを筑波大学のグループが見出した。
そしてその変異原因遺伝子Sik3を見出した。この遺伝子はハエでも同様に睡眠の長さを規定していたことより、この遺伝子は眠る動物で保存されていることが示唆された。
http://www.nature.com/nature/journal/v539/n7629/full/nature20142.html
簡単に8000匹というが、これは大変な作業であったはず。
大隅先生のオートファジー欠損株のスクリーニングも大変だったであろうが、これを上回るマンパワーが必要であったであろう。
ただ、この遺伝子がどう働いて睡りの長さを決めているのかは未だ不明である。
ただ、この遺伝子と関連のある遺伝子を芋づる式に見つけていければ、睡り(の長さ)がどのように決まっているかがわかるであろう。
もし睡りの仕組み(それを駆動してるタンパク質)が詳しくわかれば、薬で睡りをコントロールすることも可能になる。
今後のさらなる研究展開を期待したい。
眠りの中では誰しも無防備になる
『ジョジョ』デス13