細胞の寿命とかいう時に2つの寿命の定義がある。
一つは分裂寿命。細胞が何回分裂できるか、というもの。
ヒトの正常細胞をシャーレ等に取り出して培養すると、ある決まった回数しか分裂できない。
これは発見者の名前を取って、ヘイフリック限界と呼ばれている。ヒト細胞の場合は50回程度。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヘイフリック限界
これには分裂ごとに短くなる染色体末端のテロメアと呼ばれる部位の短縮がその要因とされている。
寂しい話しだが、お年寄りから採取した細胞は赤ちゃんから採取した細胞より分裂回数が短い。
これはすでに生体内で分裂を繰返しているため、その分裂回数を使ってしまっているため、と考えられている。
我々は、50回分の回数券を持たされて産まれて、それを使い続けて後残りはいくつ? 状態ということだ。
しかし、それを使い切って死ぬ人はいないようだ。つまり、120才になっても回数券はまだ残っている。
つまり、テロメア短縮がヒトの細胞の、ひいては個体の死の上限を定めているわけではないと考えられている。それなのに死ぬということは、別の要因がボトルネックになっているということ。
私はモデル生物の単細胞生物の出芽酵母(パン酵母、ビール酵母)を研究に使っている。
興味深い事に、単細胞生物にも分裂寿命がある。
このような、非対称性分裂と呼ばれる分裂をするため、どちらが元の細胞であるか区別がつく。
研究者が調べたところ、母細胞はたかだか20〜30回くらいしか子供を産めないことが分かった。
つまり、それだけの娘細胞を産むと母細胞はその後分裂できずにいずれ死ぬのである。
この場合の酵母の分裂限界はテロメア短縮が原因ではない。
そもそも酵母はテロメアが短縮しない。
原因は、前回述べた活性酸素による細胞内成分の劣化等によるものと考えられている(それを示す研究がある)。
それでも酵母が何億年も生き続けられているのは、次々産まれてる娘細胞がちゃんと子孫を増やしてくれるからである。
顕著な非対称性分裂と言う様式をとるため出芽酵母で研究が進んでいるが、出芽酵母だけが特殊だというわけではなさそうで、恐らく他の単細胞生物でも系譜をちゃんとたどればそのような限界があるのだと思う。
太古、単細胞生物でこのように獲得された非対称性分裂が、多細胞生物になるとき細胞の分化に利用された。一つの受精卵が分裂して多くの細胞になるとき、非対称性分裂のおかげで子孫の細胞にバラエティーができる。
幹(かん)細胞という細胞を生み出す細胞があるがその細胞自身は未分化の状態で分化後の細胞が果たすべき役割を担えない。が、分化した細胞を作り出すことができる。しかしその場合にも、幹細胞は幹細胞のまま留まる。つまり、未分化状態の細胞が分化した細胞を一つ生み出すことができる。これは明らかに非対称性細胞分裂を利用した細胞の産生である。
最近の話題では、癌にも癌細胞を次々産み出す幹細胞があるのでは言われ始めている。
(癌細胞の不死性に関してはいずれまた)
このように見てくると、単細胞細胞に寿命があっても問題はない。
敷衍してかんがえれば、多細胞生物においても、細胞に分裂寿命があったとしてもそのせいで生物個体が寿命があったとしても、死ぬ前に子孫を残せていれば問題はない、ようにできている。
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