スペースシャトル(ロケットも含めて)はなぜ事故や故障があんなに多かったのか?
将来、地球上に遺伝子を沢山もった複雑な生物は誕生するか?
この一見異なる問は共通している。
今日の授業でウイルスの遺伝子(RNA)複製システムはある程度いい加減でもよいが(10^3〜10^4、10の3乗〜10の4乗塩基に1つのミス)、ヒトの遺伝子複製システムは正確(10^8〜10^10塩基に1つのミス)でなければいけない、という話しをした。
スペースシャトルと車に例えて話しをすると、
車 5万個の部品
スペースシャトル 250万個の部品
一つ一つの部品の歩留まり率(不良品でない比率)が、0.999999(100万個に1つ不良品がでる場合、10^6に1つのミス)だとすると、不良品でない製品ができる率(一つでも不良品が混じると完成品は不良品になるとする)は
車 (0.999999)^5万 = 0.95(20台に1台は欠陥車)
スペースシャトル (0.999999)^250万 = 0.8 x 10^-25(と、とんでもなく低い)
このように部品が多くなればなるほど、一つ一つの部品を作る際の歩留まり率をあげなくては、到底完成品はつくれないということである。
部品を遺伝子と置き換えて生物の話しに戻すと、それぞれの遺伝子数は大雑把に
ウイルス 10個
ヒト 23000個
複製のエラー頻度がウイルス並みで10^-4で起こるとすると、遺伝子1つが1000塩基くらいだから、
1000塩基 X 0.0001 = 0.1の確率で遺伝子に不良品が出る。
つまり、歩留まり率0.9の部品を使って生物を組立てるようなもの。
ウイルス (0.9)^10 = 0.35 の確率で使える完成品ができるが、
ヒト (0.9)^23000 ≈ 0 ほとんど使える完成品はできない。
つまり、部品(遺伝子)の多い生物はDNA複製が正確でないと子孫が生きていけない。
ということで、10^-10のエラー率だとすると、遺伝子1つ当りのエラー率は1000 X 10^-10 = 10^-7となり、歩留まり率は0.9999999となる。
その結果、
(0.9999999)^23000 = 0.9977 (1万人に23人が不良となる)
上記において、DNAの変異は全てそれが不良品を産む訳ではないので(塩基が変異してもアミノ酸が変化しない場合、似たようなアミノ酸に変化する場合がある)、上の話しは過大評価されている話しとなるが。
生物が遺伝子数が殖えて複雑になれるかどうか? という冒頭の問いに対しては自ずから答えは出よう。
分かっている中で最もたくさんの遺伝子を持っているイネでも遺伝子数は4万弱である。
恐らく、これが生物の遺伝子数の上限である。
遺伝子が10万個になった場合には、現在のDNAポリメラーゼの複製の正確性をあと2桁くらい上げてないと追いつかない(その際の完成品の歩留まり率は0.9999)。
残念ながら、スペースシャトルのような複雑な生物は地球上には誕生しないのだ。
これ以上夢の続きはなさそうだ。。