私は細胞の老化に深く関与する遺伝子(TOR、トル)を研究しているため、細胞老化に関しても関心をもっている。
それだけではなく、純粋になぜ生物は老いて死ななくてはならないのかという、生物の老化・寿命の合目性に興味がある。
上記のTORの働きを部分的に抑制してやると生物の寿命が延びる。これは、単細胞生物である酵母から哺乳類(ネズミ)まで実験的に確かめられている現象である。TORの活性を低下させる化合物ラパマイシンはネズミの最大寿命を延ばす。残念ながらラパマイシンには免疫抑制の副作用もあり、人においてアンチエイジングのサプリメントとしての販売はない。
まだ見つかっていないだけで、TOR径路以外で同様な働きをする遺伝子がまだ他にあるかもしれない。
逆に活性化する事で寿命が延びるとされる遺伝子にサーチュイン/Sirtuinがある(これには異論もあるが)。
これが、老化、寿命が予め積極的に決められているとする、老化のプログラム仮説の一つの根拠ともなっている。
それを考慮したとしても、最大寿命というものがあることには変わりない。
細胞は活動をしている間、その間生ずる副産物である活性酸素によってタンパク質や脂質等の細胞内の部品が常に酸化され劣化していき、細胞の活動度そのものが低下する。
これは以前から提唱されている活性酸素により不可避的に細胞は老化するという活性酸素仮説である。活性酸素による細胞ダメージが細胞寿命の上限を設定している。これはさまざまな研究から恐らく正しい見解である。
そこからは、細胞中の活性酸素そのものを減らせば細胞のダメージの蓄積を遅らせることができるという至極当然な推論が得られる
その観点からのアンチエイジングサプリがビタミンC, Eやカテキンである。
カテキンの効能についてはまた別の機会にゆずる。
哺乳類で調べたところ、寿命の長さと、細胞中の活性酸素を消去するSODという酵素の活性との相関があった、という面白い研究がある。
この事実から、SODの高い活性が動物の長い寿命の必要条件である、ということが推論される。勿論、SODは沢山ある必要条件の一つに過ぎないであろうが。
SODを人為的に過剰発現させた酵母では細胞寿命がある条件では延びることから、そのような細胞ではSOD活性が足りていないためにそのような寿命に留まっていると言えよう(こういう実験は、条件で結果が変わるから、解釈は慎重にしなくてはならない)。
なんにせよ、上記の事実から、細胞はもっとがんばればもっと寿命が延ばせる(のでは?)、ということが見えてくる。
つまり、細胞は最大限寿命をのばそうと努力していないようなのである。これは恐らく正しい推論である。
つまり(が続くが)、敢えて細胞は今の寿命でよいと思っている。ということ。
ここから見えてくるのが、ある程度の寿命があれば十分だと細胞が考えている節がある。
寿命を最大限に延ばそうと努力するくらいなら、違うところに投資しますよ、的な意図が透けて見える。
つまり、細胞はなぜある寿命で十分だと割り切っているかのか。それがわかれば、細胞に寿命があることの合目性が分かる。果たしてその合目性とは?
この続きは次回。
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