2016年11月27日日曜日

睡りの科学

脳神経科学は生物学にとって最後の秘境である。
遺伝学、分子生物学、細胞生物学を駆使して、生命科学者はこれまで多くの生物の仕組みを明らかにしてきた。

しかし、それを持ってしても脳の構造・機能は未だ解き明かされない。

「睡り」についても脳の命令で起こるのであるが、なぜ睡りが必要なのか、すら未だに分かっていない。眠っている間は生物は無防備になり捕食者にも襲われる。それを補い余りあるメリットがあると考えられている。

例えば、起きている時に脳神経細胞中に溜まる老廃物の除去等を睡眠中に行っていることを示唆する研究が報告されている。しかしそれが行われない場合にどのような障害が起きるか等は示されておらず、それがどのくらい重要であるのか、また、未発見の他のイベントもあると予想され、まだ確かなことは分からない。

筆者はまだ完徹をしたことはない。
夜はすぐに眠くなり、夜遅くまで起きていることができない。
ロングスリーパー、とまではいかないが、とにかく睡眠が6時間を切ると辛い。

ある生物学イベントの仕組みを明らかにする場合は、

(1)そのイベントが異常になった変異体を発見し、
(2)どの遺伝子が異常になったかを明らかにし、
(3)その遺伝子の働きを明らかにする(イベントにどのように関わっているかを明らかにする)、

という手順を踏む(これを遺伝学的手法と言う)。

オートファジーに関わる遺伝子を発見してノーベル賞を受賞した大隅良典先生も同じ手順を踏んだ。

ここ(睡り)でも研究者はこの遺伝学的手法を用いた。

睡りが異常になるマウスを8000匹から睡りが短くなるマウスを筑波大学のグループが見出した。
そしてその変異原因遺伝子Sik3を見出した。この遺伝子はハエでも同様に睡眠の長さを規定していたことより、この遺伝子は眠る動物で保存されていることが示唆された。

http://www.nature.com/nature/journal/v539/n7629/full/nature20142.html 

簡単に8000匹というが、これは大変な作業であったはず。
大隅先生のオートファジー欠損株のスクリーニングも大変だったであろうが、これを上回るマンパワーが必要であったであろう。

ただ、この遺伝子がどう働いて睡りの長さを決めているのかは未だ不明である。

ただ、この遺伝子と関連のある遺伝子を芋づる式に見つけていければ、睡り(の長さ)がどのように決まっているかがわかるであろう。

もし睡りの仕組み(それを駆動してるタンパク質)が詳しくわかれば、薬で睡りをコントロールすることも可能になる。

今後のさらなる研究展開を期待したい。

眠りの中では誰しも無防備になる
『ジョジョ』デス13


2016年11月6日日曜日

フェロモンで操る

今回も『この6つのおかげでヒトは進化した』から

今回はコピュリン、女性フェロモン。

実験で、男女1組ずつの男女の双子の片方にコピュリン(無臭)を吹き付けてバーに座ってもらったところ、コピュリンを吹きかけた女性に異性が集まったという。

つまり、コピュリンは女性が男性を惹きつけるためのフェロモンである、ということが示唆された。

すでにアマゾンでもコピュリン入りの香水が売られてたりする。



このように、性フェロモンはその揮発性の特性を活かして、異性に知らず知らずのうちにアピールしていることになる。
それも無臭なため、フェロモンで操られる個体は操られていることにも気づかない。これがミソ。いいように操られるのだ。

ルルーシュブリタニアが命じる




2016年11月3日木曜日

フェロモンはある!

今回も『この6つのおかげでヒトは進化した』から

フェロモンというといかにも怪しげな淫靡な感じが付き纏うが、それというのも日常生活で使われる場合には、「フェロモン女優」を始め、性フェロモン的な使われ方がよくされるから。

生物学的に言えば、フェロモンは揮発性の化学物質であり、同種個体同士のコミュニケーションを司るものを指す。ホルモンが個体内部の細胞間の伝達を司る化学物質に対して、他個体間の伝達を司るものがフェロモンである。

人間は他の動物と違ってフェロモンをあまり感じられない。
ヒトにはフェロモンの受容体が他の哺乳類よりも少ないのが原因である。
しかし、人間が言葉によって高度なコミュニケーションを取れるようになったことが遠因であろう。言葉によって自分の意思・感情を伝え合えるようになったことで、フェロモンへの依存がより減少したであろうことは想像に難くない。

ヒトは野生生物として有していなければならない様々な知覚を失ったことであろう、その文明化の中で。例えば、地震が起こる前に鯰が騒ぐとしたら、何か電気信号ないし微弱な予兆を野生動物は把握できるのであろう。沈没する船からネズミが逃げ出す、というのも単なる比喩や言い伝えの類いとして片付けられはしまい。

その少ない人類が感じられることが判明しているフェロモンの一つが、アンドロステノールである。

以前にも書いたが、フェロモンには匂いはない。

http://ushitaka7.blogspot.jp/2013/04/blog-post_4.html
  
匂いを感じない程度の微量であるが、脳がそれを感知してアクションを起こす。それがフェロン。つまり、加齢臭(ノネナール)などの臭う物質はフェロモンではない。

アンドロステノールも匂いを感じられるものではない。

アンドロステノールは、男性の汗腺で作られる無臭の分子で男子フェロンと言える。

実験では、アンドロステノールを吹き付けた写真を女性に見せると、そうでない写真より、女性は魅力的に感じたという。
また別の実験では、アンドロステノールを噴霧された女性は、その後男性と一緒に過ごしたいと思うようになることがわかった。

つまり、アンドロステノールは女性を魅惑する、まさしく男性フェロモンと言ってよかろう。

注意したいのは、これが決定的な力を持つということではない。そのような傾向を持つということ。

考えてみれば当たり前だが、もし異性を自由に好きにコントロールできるなら、その他の表現型による性淘汰は全く起こらないであろう。

性フェロモンは単にその個体の異性に対する想いを微力ながら助けるだけなのである。

ここは無難に峰不二子

2016年10月31日月曜日

赤ちゃんの超未熟さ加減

今日は『この6つのおかげヒトは進化した』チップ・ウォルター(早川書房)より



以前にも書いたがヒトの赤ちゃんは超未熟児状態で生まれてくる。

http://ushitaka7.blogspot.jp/2012/06/blog-post_22.html 

ではどのくらい未熟児状態で生まれてくるのだろうか。

もし、他のサルと同様に生まれてお母さんにちゃんとしがみつく、など自ら生きようとの活動ができるくらいの成熟度で生まれてくるとすると、妊娠期間は21ヶ月に達すると言う。つまり、ほぼ丸々1年も早く母体から生まれ落ちるということだ。

ヒトの赤ん坊は全く自分では何もできない。
頭蓋骨の継ぎ目は閉じていない。
脳は小さく未発達である。
腕や足、指の骨は軟骨に近い。

ヒトはサルの「ネオテニー(幼生進化)」により進化したとされるが、いいこともある。

ネコの生後1年くらいまでは色々なものに好奇心を持ち、じゃれもするが、すぐにそう出なくなる。

ヒトは、大人になっても好奇心を持ち続けて創造性を失わない。若々しさが持続する。

ヒトの脳の高い可塑性は、長い幼年期と呼ばれて、環境に臨機応変に対応することができる。

いつまでも、幼い、これは素晴らしいことなのだ(いつまでもすねかじりも?笑)。


いつまでもアニメ!


2016年6月5日日曜日

内的死亡率は二義的なもの?

(前回の続き)
ここで更に考えを進めてみたい。
外的要因が生物の最長寿命を決めているのは理解できた。
しかし、内的要因はどこまで重要なのだろうか?

コウモリとネズミが同じ体の大きさならば、体重当たりの呼吸量も同じになり、ミトコンドリアから発生する活性酸素の量も同じになると考えられる。それなのに、ネズミは活性酸素にやられて、コウモリはやられないとすると、その差はどこから生じるのであろうか?

活性酸素がミトコンドリアより発生するや否や、それは通常、酵素もしくは非酵素的に消去される。例えば、O2- (スーパーオキシドアニオンラジカル)はスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)によってH2O2(過酸化水素)に代謝される。H2O2は次にパーオキシデースやカタラーゼによってH2Oに還元される。

これらの活性酸素消去系酵素の活性が高ければ、当然、活性酸素による細胞のダメージも少なくなる。

ヒトはサル仲間に比べて、SOD活性は極めて高い。
ヒトはこの高いSOD活性によって細胞は手厚く守られている。


コウモリのSOD活性のデータは知らないが、恐らくはネズミより高いに違いない。

百年住宅というものがあるが、これは100年持つことを前提に作られた家である。
それに比べて、最近の電化製品は壊れやすい。数年での買替えを前提に作られているから、一つ一つの部品を高価なものにしていない。

まず何年持たせたいかという耐久年数のビジョンがあって、その生物個体の細胞も臓器もデザインされていると言ってよい。

2年もてばよいネズミの細胞に大量のSODは必要ないのだ。

では、いかにもな、昨日示したような体の大きい哺乳類ほど寿命が長い、というのはどう説明するのか?という問題。昨日は活性酸素発生量の多寡で説明した。
しかし、これも外的死亡率(大きい動物ほど捕食者に狙われにくくなる)が先にきている可能性が考えられる。

がんに関しても、ヒトと同様に長生きするクジラはがんになりにくい。

ヒトは一体何年持つように設計されているのであろうか?

その設計が200年なら、もっと細胞のSOD活性を高めればよいだけの話だ。
内的死亡率は二義的なもの、ということになる。

捕食者を退け、病気を克服し外的死亡率を限りなく下げてきた人類にとって、その耐久設計が200年になろうが驚きではない。

繰り返しになるが、外的死亡率が下がり長い生が保証されゆっくりと子供を産むようになれば老化が遅くなるように生物はできている。

何千年も生きる植物のように、人類もそうなれる可能性はある。

絶対王者になれば、不老不死も夢じゃない笑

*今後は不定期に、のんびり、ブログをアップします。100年計画で(笑)

2016年6月4日土曜日

コウモリはなぜ長生きか?

久しぶりのアップ。
休載空けの漫画家さんのようでなにか面映い。

先日の授業で体の小さな哺乳類ほど短命である、という話をした。
恒温動物である哺乳類は体温を保つ必要がある。
小さい動物ほど、体積当たりの表面積が大きいため、体積(体重)当たりのエネルギーが必要なため、呼吸量を多くなる。その結果、活性酸素がより発生することによりになり、細胞が老化しやすくなる、という説明をした。

しかし、それでは説明のつかない例、つまり例外として、ヒトに加えてコウモリを挙げた。ハムスターは2年弱しか生きないのに対して、同じくらいの体重のコウモリは10年以上の最長寿命を持つ。




コウモリはなぜネズミほどの小型であるにも関わらず長命なのか?
(ヒトでは、おばあちゃん仮説、を紹介した)

今回は『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』インターシフト社刊、ジョナサン・シルバータウン著(寺町朋子訳)から



生物は一生に残せる子孫の数を最大にしようと進化してきた。
換言すれば、そのような生物個体が成功し勝ち抜いて現在の生物になった。

ここで重要なのが、「外部要因による成体死亡率(外的死亡率)」という概念。
単位時間内(例えば一年間)に外的要因(例えば、捕食者に襲われて命を落とす、とか)により命を落とす確率。

外的死亡率が高い環境に棲む生物は、のんびり子供を1年間に1匹ずつ産んではいられない。さっさと、短期間にたくさんの子供を残さねばならない。
いつ兵隊に取られて戦争で死ぬかもしれない境遇では、早めに結婚した方がいい。

逆に外的死亡率が低い生物はそんなに慌てて無理して子供を短期間に産まずとも、毎年少しずつ無理ない範囲で産んでゆけばよい。

こうもりは、哺乳類で唯一空を飛べるため、捕食者に狙われる命を落とす危険性が少ない。それゆえ、ネズミに比べて外的死亡率が低い。

つまり、こうもりはネズミと違って「生き急ぐ」必要がないのである。

鳥も哺乳類と同様に恒温動物であるが、小型の鳥も同様な理由で同じくらいの大きさの哺乳類よりは最長寿命が長い。

インコの仲間のヨウム(洋鵡)の最長寿命は50年という。




これは環境的要因が生物の最長寿命(老化するスピード)を左右する例と言ってよい。

つまり、最長何年生きるように設計されているか、という最長寿命は活性酸素、テロメアなどの内的要因だけで決まるものでなく、外的要因によっても大いに影響を受けるという、極めて当たり前の帰結。

樹上生物の動物も比較的、外的死亡率が低い。
ヒトは樹上生活を捨てたが、頭脳と武器により他の生物を寄せ付けない不動の地位を築いたため、外的死亡率は極めて低くなった。

人類が長寿に堪えられる設計のボディーになれたのは、外的死亡率の低さが一因と言ってよいだろう。

オッポサムでも、外敵のいない島に暮らすものは、大陸に棲むものよりも老化速度が遅く、寿命が長い。

島国の日本人が長生きも同じ理由?(笑)

言わずと知れた長寿番組