2012年7月31日火曜日

ミトコン(13)サリエル襲来!

ミトコンドリアはアポトーシスに積極的に関与する死の天使だ。

(死の天使サリエル)

(参照:サキエル)


アポトーシスが起こるシグナルは外から来る場合(外から命令されてのアポトーシス)と、内部からのシグナルで起こる場合(細胞の自ら判断してのアポトーシス)がある。

前者はカエルの尾の消失に伴うプログラム細胞死などの発生途中に起こるアポトーシスの場合であり、後者はDNAダメージ等で細胞が傷付いて自殺を選ぶ場合等に観察される。

このどちらの場合にも、ミトコンドリアがその実行に関与する。

研究者にとって衝撃的だったのが、アポトーシス時にミトコンドリアから漏出したチトクロムcがそのアポトーシス実行に関与していたことだ。

チトクロムcは、ミトコンドリアの呼吸鎖、電子伝達系の電子の授受を行っている重要なタンパク質。



アポトーシス時には、チトクロムcがミトコンドリアから漏れ出して、細胞質に存在するApaf-1に結合して、それによりカスパーゼ(プロテアーゼの一種)が活性化し、核膜タンパク質ラミンなどの細胞成分が切り刻まれ、核の断片化等が引き起こされる。



(細胞の分子生物学より)


このように、生存と死という両局面をミトコンドリア(チトクロムc)が制御していることから、ギリシャ神話の双面のヤヌスにも例えられる。

(ヤヌス)

(もひとつ顔をもっていたら、アシュラマンと呼ばれていたところだ)

酵母も同じくチトクロムcがアポトーシスに関与している。
(単細胞生物におけるアポトーシスに関してはいずれまた)
ただし、植物、ショウジョウバエ、線虫ではミトコンドリアはアポトーシスに関与するものの、チトクロムcはアポトーシスに関与していないらしい。

ということは、ミトコンドリアの隠し球はその他にもあるということ。。

(以下次号)



2012年7月30日月曜日

ミトコン(12)Komm, süsser Tod

ミトコンドリアが細胞の生存に絶対的に必要なことは疑うべくもないが、細胞の積極死であるアポトーシスにも深く関与することが分かったのは1990年代のこと。

以前、紹介した『ミトコンドリアが進化を決めた』(みすず書房)の原題も『POWER, SEX, SUICIDE - Mitochondria and the Meaning of Life』 。
直訳で「権力、セックス、自殺 - ミトコンドリアと生命の意味」というところか。

よく言われるように、欧米の書籍の題名は即物的でドライな題名がcoolと思われていて、上記のような題名になっている。
これじゃ、そのままでは日本では売れないので情緒的なウエットな名前に変えられる。

言わずもがなだが、
POWERがミトコンドリアのエネルギーATP産生に、
SEXは性、有性生殖に(これはまだブログで触れていない)、
SUICIDEはアポトーシスにひっかけてある。


細胞には大きく2つの細胞死がある。

事故死にも例えられる受動死「ネクローシス(壊死)」。

火傷、蛇毒、凍傷、等で細胞は壊死する。

http://ja.wikipedia.org/wiki/壊死

*怖いもの見たさの人は「壊死」で画像をググるとよい。

細胞は増殖こそがその存在証明であり、自分から死んでいくことになんの意義があろうか、となかなかアポトーシスの存在は信じてもらえなかった。




しかし、オタマジャクシの変態の際に尾が消えてゆく、その過程の研究を通して細胞のプログラム死が存在することが明らかになってきた。


今では、そのしくみも解明され、意義も広く認知されている。

しかし、まだあまりサブカルでの認知は低い。

(Stains:Gateより、#19無限連鎖のアポトーシス、#20 怨嗟断絶のアポトーシス

これにどうミトコンドリアが絡んでくるのか?
(次号を待て!)

(エヴァより、Komm, süsser Tod、甘き死よ、来たれ


2012年7月29日日曜日

スイスの路面電車

スイスの広さは九州くらい。
人口は800万人弱(九州は1400万程度)。

ご存知の通り、スイスは日本と同様に山がちの国。
列車に乗って旅をしてみると、小さい集落が山の斜面に多く存在しているのが分かる。

ここで問題。

Q. スイスの首都は次の都市のうちどれでしょう。

1. チューリッヒ
2. ジュネーヴ
3. バーゼル
4. ベルン



答えは4のベルンだが、実は上記の都市はスイスの人口の多い都市ベスト4なのである。
しかし、有名な割りに殊の外人口の少ないのに驚くだろう。

チューリッヒ 37万人
ジュネーヴ 18万人
バーゼル 16万人
ベルン 12万人


これは日本の地方都市並みだ。最大の都市チューリッヒすら静岡市の半分程度。
バーゼルに至っては16万人。首都ベルンはさらに少ない。

ただ、暮らしてみるとこのくらいの規模で過不足はない。

主要都市には市民の足として路面電車(トラム)がある。

バーゼルにもトラムが縦横無尽に走っており、ヨーロッパで一番長い路線もある。



実は、トラムは運賃を料金箱に入れるシステムがなく、切符をちゃんと持っているかどうかチェックする人もいない。乗客を信頼してそれをおこなっていないのだ。

しかし、それじゃ、ただ乗りするヤツもいるだろう、と心配になる。

そういう不届きな輩を取り締まるために、市民に紛れて切符を持っているか抜き打ちに調べる人がいる。

もしその時、正当な値段の切符を持っていなかったら30スイスフラン(約2400円)の罰金を払わされる。

僕も、急に乗客の一人が立ち上がって他の乗客の切符をチェックし始める光景を目にした。
ちゃんと切符を持っていて良かった!

外国に住んでいると、ある意味、日本人を代表して住んでいるようなもので、「日本人はダメなやつだ」と思われるようなことは絶対にできないし、してはいけない。

スイスの暑い夏

夏を迎えると、涼しいスイスの夏を思い出す。
静岡で夏、真っ昼間に散歩しようという気にはならないが、スイスだとハイキングしようという気になる。

スイスの夏は北海道並みに涼しい。
夜なんか、窓を開けて寝ると寒いので閉めて寝る。
もちろん、エアコンなんて部屋についてない。

雨なんか降ろうものなら、寒い。
雨が降りそうだとかならずコートを持って出かける。

スイスの天気は一日でコロコロ変わるという印象がある。
天気予報も、晴れのち、曇りのち、雷雨、とか。

ちなみに、日本では、晴れのち、曇り、時々雨とかは出せないことを先日知った。1日の天気予報として2つしか天気を表示できないらしい。
考えたらこれも変な話し。
1日のうちの天気が 晴れ → 曇り→ 雷雨、とかになる日もあろうに。


最近は地球温暖化の影響でヨーロッパ、スイスも猛暑にしばしば襲われる。
レストランも喫茶店もエアコンがないから暑い暑い。
アパートもエアコンがないから窓を開けて寝なくてはならず、アパート隣のピータース教会の早暁の鐘の音で叩き起こされる。

その年は、フランスでも暑さでお年寄りがたくさん亡くなった。
涼しい地方が猛暑に襲われると、備えがないだけに悲惨な事態になる。

以前、北海道に夏休みに避暑に行った時もちょうど北海道全体が猛暑に襲われて、リゾートホテルニドムにエアコンがなくて自宅よりも暑い夜を過ごすことなった。
トホホの避暑だった。

ピータース教会


2012年7月27日金曜日

働け! ニート

遺伝子DNAこそが生命の本質であり、生物個体はそれを次世代に伝えるためにDNAが開発した乗り物に過ぎない(ドーキンスの「利己的遺伝子」)。

自分が遺伝子の操り人形だと言われて気持ちのいい者はいない。
しかし感情的には受入れられ難くとも、これに反駁するのは難しい。

せいぜい、聖職者になって妻帯せず子供を作らず、俺は遺伝子に打ち克ったぞ!、と叫ぶくらいが関の山(もしくは結婚できずに)。


自然淘汰なり性淘汰は遺伝子そのものにではなく生物個体(つまり、遺伝子型ではなく表現型)にかかってくる。

その時、重要なのは、遺伝子と言っても遺伝子1つでできている生物はいない、という点だ。

生物は遺伝子「達」でできている訳だから、その遺伝子達が「力を合わせて」出来上がっているその生物個体に淘汰圧は降り注ぐ。

その際に、働かないニート遺伝子が生じる危険性が常にある。



今、最低賃金との逆転現象で社会問題になっている生活保護制度。
やっぱり、苦労して働いている人より働かない人に暮らしが保証されているのはどう考えてもまずい。

そのようなニート遺伝子の混入を働いている遺伝子達は排除できるか?
ただ乗りは許されるのか?

その答えは、ここ数回のブログに書いた。

細菌の場合、必要とされない(使われない)遺伝子は早晩ゲノムから退場を余儀なくされる。

常に生物個体にとって役立つ、つまり、ともになって働く遺伝子のみが次世代に伝えられる。

これは、細菌が

①敵に打ち勝つために、増殖速度を常にマックスに保持しなくてはならず、要らない遺伝子が削除されやすい。
②遺伝子を一旦デリートしても、また遺伝子を水辺伝播により必要があれば取り戻せる。

という特徴をもっているため。


一方、真核生物でも、酵母のように①の特徴を有しているものはニート遺伝子(ジャンク遺伝子、偽遺伝子)はほとんどない。

つまり、これらの生物の遺伝子にとって、かつては働いていたとしても、リタイアした後働かず気ままに余生を送れるような余地は皆無といってよい。


しかるに、ヒトはというと、以前ブログで触れたようにニート遺伝子に満ち満ちている(6月15日)。

このままヒトが死に続けていくと地球はお墓ばかりになるという笑えぬ事態になるように、使わない遺伝子が進化の過程で殖えていくと、ゲノムは墓場と化す。


これは、ライフサイクルが長い生物の宿命かもしれない。

生物個体に常に速く増えねば、という強い圧力がかかり続けていない限り、ゲノムからニート遺伝子が除かれる速度が著しく低下する。

ヒトのゲノムはリタイアした遺伝子(ビタミンC合成酵素遺伝子とか)を、働く世代の遺伝子が支え続けなくてはいけないという世代問題の真っ最中なのだ。

晩婚の流れはこの傾向を一層加速する(苦笑)


二次元嫁指向、は遺伝子に打ち克ってる!(子孫に結びつかないから)、とある学生が言っていたが、残念、これは単なる代償行為だね。


(Steins:Gateより、二次元魂を持っているフェイリス)


ミトコン(11)倒れてもいいよ

ミトコンドリアから遺伝子が逃げ出す理由の一つとして、ミトコンドリア内部で発生する活性酸素により遺伝子が傷付くことが問題だから、と述べた。

でもその一方で、ミトコンドリアから逃れられないキーになる遺伝子もあると述べた。

ではどうやって、そのミトコンドリアに残っている遺伝子は活性酸素からのダメージを回避しているのか?

やっぱりDNAは常に活性酸素によりダメージを受け続ける。

しかし、ミトコンドリアは、核ゲノムと違って、沢山のコピーを有している。

一つのミトコンドリアの中にミトコンドリアのゲノムは5〜10コピー存在する。

つまり、一人がやられても次の代わりのものがちゃんと控えているのだ。

細胞中には数百ものミトコンドリアがあるから、都合、一つの細胞中に数百コピー〜数千コピーもある。

「織込み済み」という言葉があるが、ミトコンドリアゲノムがたくさんコピー、クローンを有しているのは、ミトコンドリアDNAが傷付くことを織込み済みというわけだ。

クローンと言えば

(綾波ですね)

ちゃんと、使徒にやられることを織込み済み。



先生が暑さで授業の途中で倒れても、ちゃんと先生のクローンが控えていて何事もなかったかの如く現れて、授業の続きを滞りなく進めるようなもの。

おいおい、先生が倒れたらちゃんと授業が中断してくれなきゃ困るよ、という学生の声が聞える。

先生としてもクローンが控えていると安易に使い捨てられそうだ。

先生クローン化計画反対署名運動に署名します。



(何かに熱中症になりたい!ペンギン)

2012年7月25日水曜日

ミトコン(10)羽を下さい!

捨ててしまったものを後になって悔やむことはある。

細菌が一度遺伝子を捨ててしまって、それが再度必要になったらどうするか?

実は、遺伝子は復活することがある。

細菌の場合、周囲の死んだ細胞からでてきたDNAが取り込まれたり、別の細胞との融合で遺伝子が取り込める。




自然界では、ある個体が遺伝子を失っても、別の個体はまだ遺伝子を失ってないことがある。

我々人間が千差万別のように、細菌の集団もAさん、Bさん、Cさんで千差万別なのだ。
研究室で培養されているような単一クローンではないということ。

僕はこの遺伝子を誤って捨ててしまったけど、君ちょっと融通してくれない?、的なことが細菌の集団内である。

つまり、細菌は集団で遺伝子を保持しているようなもので、個人で保持していなくてもそれで即、その細菌の子孫が全滅ということはない。

さらにすごいことに、異種の生物からも細菌は遺伝子を取り込める。
このような遺伝子の伝わり方を「遺伝子の水辺伝播」と言う。


http://ja.wikipedia.org/wiki/遺伝子の水平伝播



子孫に受け継がれる遺伝子の流れを垂直方向とした時の水平方向への遺伝子の受け渡しである。
ミトコンドリアから核への遺伝子の移動も一種の遺伝子の水平伝播である。

ただ、これがあまりに激しいと個体としてのアイデンティティが保てないのでは? と人ごとだが心配になる。

事実、最も激しく遺伝子の水平伝播が起きている淋菌(淋病の病原菌)ではあまりに遺伝子の置き代わりが激しすぎて種のゲノムの統一的な像が確定できないほどだ。
なんと淋菌はヒトからも遺伝子をもらっている。

ヒトでも遺伝子をどんどん取り込んで日々進化できたら、ある朝起きてみたらライオンの顔になっていて、そのまた次の日には羽が生えてる的な。




天使の羽には憧れる。


一方、真核生物では、接合、交接、交尾、受精、等、明らかに同じ遺伝子セットを持つ同士でつがわないと子供ができないシステムを採用しており、あまりに集団内のゲノムがバラバラだと子孫が残せない。

それもあり、真核生物では水平伝播による遺伝子のやり取りは原核生物程には融通無碍になっていない。

ただし、真核生物でも感染した細菌やウイルスによって新たに遺伝子が持ち込まれることがある。
シロアリが木を食べてセルロースを分解するセルラーゼの遺伝子も水平伝播で細菌類から持ち込まれた可能性が指摘されている。


ヒトでもそのような遺伝子の例は知られているが、それが役に立っているかは不明。
羽をもたらす遺伝子をもったウイルスよ、来い!
ビールジョッキ片手に夏の夜空を羽搏いたらさぞ気持ちいいことだろう。


2012年7月24日火曜日

使い捨てカイロ

テロメラーゼを体細胞が発現せず、有限回の分裂寿命を持っている理由として、テロメラーゼを発現させ不死化させるとがん化のリスクが高まるためではないかと授業で話した。







それを受けて生徒から受けた質問。

では、テロメラーゼを発現している生殖細胞ではどのようにがん化のリスクを回避しているか。生殖細胞にはがん化しない特別なからくりがあるのか?

もしそれがあるなら、体細胞でもテロメラーゼを発現させて不死化させて、さらにそのからくりも同時に持ち込めばがん化させなくすることが可能なのではないか?


その答えを先に言うと、

生殖細胞には次の3つの特徴があるため、どうもがん化しにくいらしい。
(本には書かれていなかったので専門家に訊いた)

1. DNA変異の起こりにくさ
2. DNA修復能力の高さ
3. 細胞死による変異細胞の除去能力の高さ

*ここで大事なのは、テロメラーゼの発現は、細胞の不死化およびがん化の必要条件ではあるが十分条件ではない。

生殖細胞でできるのならば、体細胞も生殖細胞並みに、DNA修復能力の高さ、細胞死による変異細胞の除去能力の高さをもつことはできそうだが、そうなっていないという事実は、体細胞はがん化しないように目一杯がんばっている訳ではなく、耐久年数を考えたらこんな程度でいんじゃね、とがん化の抑制に手を抜いていることを示唆する。

DNA変異の起こりにくさに関しては、細胞の活動度に比例した活性酸素の発生によるDNAへのダメージもあり、生殖細胞並みに下げることはむずかしそう。

それが証拠に、寿命が長い動物程、体細胞でがん化しないように、防御機構が頑張っている。ヒトより寿命の短いマウスの細胞はがん化しやすく、長生きのクジラはがん化しにくい。
つまり、やればできる子なのにやらないだけなのだ。

生殖細胞はさすが、大事にされている。
それに比べて体細胞は所詮、使い捨てか(トホホ)というのが結論である。

(エヴァ新劇場版で開始早々やられたエヴァ5号仮設機)

使い捨てキャラもストーリー展開には必要だけどね。。






真希波・マリ・イラストリアスも使い捨てられた5号機から脱出した。DNAのように。。あー。



2012年7月23日月曜日

ミトコン(9)着ない服は捨てる

ミトコンドリアがもともと独立した生物(原核生物)だった頃にはどのくらい遺伝子をもっていたのか?

大腸菌は4289個のタンパク質の遺伝子を有している。

男一匹、厳しい自然界で一人で生き抜くには、そのくらいの遺伝子は必要なのだろう。

自給自足で生きていくのに必要なものを全て調達しなくてはならない。


方や、細胞内に寄生する原核生物であるマイコプラズマ類は467個しか遺伝子を持っていない。

細胞の中にある必要なものを好きなように使えるので、DNAの材料とかを自分で合成する必要がない。
お抱えの料理人を抱えている貴族のような感じ。



それにしてもなぜ遺伝子を失うか?

もともとあった遺伝子が変異した場合に、その遺伝子を必要としている場合には、その個体は死んでしまうから、その遺伝子を失うような個体は後世に残り得ない。

しかしその遺伝子を失っても生きていける場合には、遺伝子を失う子孫がその生物の集団中に出現する。

なくてもよい遺伝子はこのように変異が蓄積してゆく。


ヒトの場合、先祖のおサルさんが植物から十分にビタミンCを摂取できたために自分でつくる必要がなくなった。そのために、ビタミンCの合成のための遺伝子を失っても先祖は死ななかった。
そのために、人間はビタミンC合成遺伝子を失ってしまった。

さらに言えば、なくてもいいならその遺伝子は失われる。
なぜならば、遺伝子が失われてその分DNAが短くなれば、複製する時間も短縮されて、その方細胞は速く増殖できる。特に細菌は速く増殖することが命。そうでないとライバルに負ける。

別の細胞内寄生性の原核生物であるマイコプラズマも834個の遺伝子しかもたないが、今まさに身軽になろうとしている過程が観察される。

全ゲノムの1/4近くは変異だらけのぼろぼろの偽遺伝子と化している。
これらもいずれゲノムから失われる。

細胞増殖を引越に例えるならば、遺伝子は家財道具。
使わない家財道具を毎回持って引越するより、捨てていった方が随分楽。

着なくなったけど、いつか着るかもしれないからこの服捨てずにとっておこう、とは細胞は考えない。
そんなことをしていると部屋(ゲノム)の中は服(遺伝子)であふれかえる。
今必要ないものは捨てよう! だ。


でも、近視眼的に振舞っていいものだろうか。
夏に冬服着ないからと言って、それを捨てたら冬になったら困らないか?

いい質問だ。

これに関して、つづきは明日。

(となりのトトロの頃の引越は家財道具も少ないしのどかだ)

2012年7月22日日曜日

クレー(2)デッサン力

『花ひらいて』

これも有名なクレーの絵。
極上のパッチワーク作品として楽しめる。


『忘れっぽい天使』


これはクレー晩年の天使シリーズのうちの一つで最も有名なもの。
かきなぐり的な力みのない絵だ。

ピカソも晩年にはシンプルな絵に回帰していた。
すでに幼少の頃にプロ並みのデッサン力、画力をもっていたピカソだからこそ、すべてをやり尽したあと、子供のような絵にもどってきたのだろう。

『平和の鳩』

プロのデッサンは無駄がない。

基礎力、デッサン力は基本だ。

パウル・クレー

スイス生まれの画家、パウル・クレー(Paul Klee、1879-1940)。
スイスの首都ベルン近郊で生まれた。



最も好きな画家の一人。
スイスに行く前から好きだったが、たまたま留学したスイスのあちこちの美術館に沢山のクレーの絵があり感激した。


『セネシオ』


この絵をみたことはあるだろう。
セネシオとは菊の一種。人の顔と野菊の融合を試みたというところか。

その色彩のマジックは、抽象絵画と具象絵画を境界をあいまいにして融合した。

先立つこと、カンディンスキーが開拓した抽象絵画


これと比べるとクレーの絵が単なる抽象絵画を昇華して、色のハーモニーを楽しみつつもそこに具象性を織り込むことを模索していたことが分かる。


(クレー、パルナッソス山へ)

具象性を持ちつつ、抽象絵画から学んだ色彩の交響詩。
具象画としてもみてもよいし、抽象画として楽しむもよし。
この持ち味がクレーである。

この絵には『パルナッソス山へ』という題名がつけられているが、題名のパルナッソス山を知らない子供でも楽しめる。

パルナッソス山は、ギリシャ、デルポイの上にそびえる、不毛の石灰岩でできた山。アポロンやミューズたちが住み、詩、文学、学問の発祥の地としてヨーロッパ人に愛されている。






題名に拘泥することもない。
芸術の中には敢えて『(無題)』として提出されるものもある。
題名がつくことによって鑑賞者がその題名に縛られてしまうことを危惧してのこと。


我々は芸術を鑑賞する時、その題名、作者、作者の人生、作品が産み出された社会背景、様々な情報に囚われてしまう。それがいいか悪いかは一概には難しい。

アニメも同じ。監督、制作会社、声優陣とか知っているとより楽しめる情報はあるが(よく聴く、◯◯を10倍楽しむために的な)、知らなくても十分楽しめる(よね!)。

2012年7月20日金曜日

ミトコン(8)キーパーツ

渋滞に巻き込まれると誰しもイラつく。



しかし渋滞でイラついたからと言って、周囲の公共物を破壊したり普通しない。

(Carnival Phantasmより、バーサーカー)

良い子はそんなことはしない。


ミトコンドリアが絶対に手放せない遺伝子があることは話した。

それは電子伝達系の遺伝子である。

一番ミトコンドリアの遺伝子を手放してしまっているマラリア原虫ですら、そう。
たった3つのタンパク質の遺伝子しか有していないが、その3つとも全て電子伝達系の遺伝子。

電子伝達系の遺伝子はどうしてそんなに重要なのか?

電子伝達系のおさらいだが、
酸素(O2)を水(H2O)に変換する過程で、膜を介して水素イオンを汲み上げることで水素イオンの濃度差の勾配をつくることがその働きである。



電子伝達系ベルトコンベアー上で酸素は電子をもらい水へと還元される。

しかし電子伝達系の流れが滞った場合には、その中間産物(活性酸素)が行き場を失って暴れ回るのだ。

DNA、タンパク質、脂質、全ての細胞内成分を酸化する。


交通渋滞にまきこまれて暴れ回る大人げない感じ。


電子伝達系ハイウェイはスムーズに流れることが最重要なのだ。

つまり、電子伝達系ハイウェイはエネルギーを産み出すために重要な経路であると同時に、渋滞したら害毒をまき散らす危険な存在なのだ。

そのために、電子伝達系の管理には細心の注意が必要なのである。

このように電子伝達系は取扱いが難しいため、同じく電子伝達系を持っている葉緑体も電子伝達系の遺伝子を手放してはいない。

それと対照的に、電子伝達系をもたない「ヒドロゲノソーム」は全ての遺伝子を手放してしまっている。

*解説しよう。ヒドロゲノソームとは嫌気性生物に存在し電子伝達系を介さずにATPを産生する細胞内小器官である。ミトコンドリアの近縁と考えられている。

http://ja.wikipedia.org/wiki/ハイドロジェノソーム


電子伝達系に関与するタンパク質は50を超える。
しかるに、僅かの数のみの遺伝子しかミトコンドリアは持っていない。

それなのに、ちゃんと電子伝達系が組立てられるの?

いい質問だ。

実はミトコンドリアが手放さない遺伝子は、電子伝達系の組立に際して土台となる最も重要なタンパク質。それに乗っかる形で、核ゲノムに暗号化されている電子伝達系のタンパク質が寄り集まってきて適正量の電子伝達系が構築される。

つまり、キーパーツさえもっていれば大丈夫なのだ (o^-')b



(カチューシャパーツのないハルヒは???)


2012年7月19日木曜日

ミトコン(7)わたしをうみにつれてって

外国への引越しはやっぱりそれなりに大変だった。


ミトコンドリアから核へ遺伝子が引越するにはそれ以上に骨が折れるだろう。

隣町に転校するのとはわけが違う。

(これでいて謎の転校生役もけっこう疲れるんですよ、ふっ)

DNAが運良く核に移動して核ゲノムに組み込まれたとしても、それが転写されなければ遺伝子として機能しない。

つまり、核ゲノムに引越する際に、たまたま適当なプロモーターの後に挿入されなければ転写されない。
(もしミトコンドリアの遺伝子がプロモーターを伴って核に移ったとしても、そのプロモーターは原核生物タイプのため使い物にならない)。

しかし、それだけではまだ足りない。

ミトコンドリアにタンパク質が運ばれて取り込まれるためには、「わたしをミトコンドリアに連れてって」シグナルが必要。

*解説しよう。細胞質で合成されて、核、ミトコンドリア、葉緑体に運ばれるタンパク質には行き先表示の暗号がタンパク質中に含まれている。専門用語でプレシークエンス、シグナル配列などと呼ぶ。


http://www2.kpu.ac.jp/life_environ/cell_genome_bio/nkubo_jp.html

もともと遺伝子がミトコンドリアにあった時にはプレシークエンスは必要なかったので、当然そのための暗号はタンパク質中にはない。

それが、核に移動した後に偶然にそれを獲得したものだけがミトコンドリアに入ることを許可されるということだ。

こんな偶然、本当に起こるの?

しかし生物の様々な進化を実際目の当たりにすれば、このくらいの僥倖を待つくらいのことは気長な生物進化にとってはへっちゃらなのであろう。

ミトコンドリアから核へ遺伝子が移る場合には

①ミトコンドリアに遺伝子Aが存在する。
②ミトコンドリアに遺伝子Aがそのまま存在したまま、そのコピーAが核ゲノムに挿入される。
③ミトコンドリアに遺伝子Aがそのまま存在したまま、そのコピーAが変異してミトコンドリアで機能できるタイプA'になる。
④ミトコンドリアの遺伝子Aは失われ、核ゲノムにA'だけ残る。

という手順になる筈である。

核コードの遺伝子がちゃんと機能するようになるまで、元のミトコンドリアの遺伝子Aは捨てられない。

動物の場合には、すでにミトコンドリアの遺伝子のほとんどはお引越が終わっているが、植物では比較的まだ多くの遺伝子が残っており、お引越の途中の過程が解明できるのではと研究が進められている。


同様に葉緑体からもDNAが核へ移っている。

タバコ一株でつくられるおよそ100万個の種子のうち60個の種で1つの遺伝子の移転が現在進行形で観察される。

(1/16,000個の種の割合で葉緑体の遺伝子1個が核に移っている)

これをみると、進化はなだらかに起こっているのだな、と感じる。

(わたしをうみにつれてって)


2012年7月18日水曜日

ミトコン(6)飯をくれー!

活性酸素(ROS)によるダメージから逃げ出すため、ミトコンドリアから遺伝子は核へ移ってゆく、という話しを前回した。

多くの真核生物がいるが、ミトコンドリアDNAを全て捨て去った生物はいない。

つまり、ごく僅かの数であってもミトコンドリアが遺伝子を持っていることが、細胞として何か有利なことがあるということが窺い知れる。

ミトコンドリアが何かタンパク質を新しく合成したい時、ほとんどの遺伝子が核にあるため、核にお願いしなくてはならない、僕のためにタンパク質を作って送って下さい、と。

たとえるならば、お腹をすかせてご飯をくれー、とミトコンドリアは核に向かって声をあげなければならない。

(Fate/stay nightより、ミトコンドリアが飯をくれー、というイメージ)

しかし実は、細胞中のミトコンドリアは均一でない。


ROSによるダメージを多く受けているミトコンドリアもあれば、そうではないものもある。

核が、ダメージを受けたもの、そうでないもの、それぞれのミトコンドリアのタンパク質合成のニーズをそれぞれに応じて叶えるのは難しい。

どのミトコンドリアがお腹をすかせてご飯をくれー、と声を上げたのは核には分からない。

そのため、核としては取りあえずミトコンドリアからニーズがきたらそれに答えて、全てのミトコンドリアに同様にタンパク質を供給することになる。
ミトコンドリア側からしてみれば、核からは画一的なタンパク質の供給しか受けられない。


そのため、それぞれのミトコンドリアがある程度裁量をもって振舞うためには、キーになる重要なタンパク質に関しては自分で遺伝子を保持していた方が便利である。

例えば、電子伝達系の遺伝子をミトコンドリアは手放していない。
やっぱ、ミトコンドリアにとって電子伝達系は心臓部なのだ。

零落した貴族が最後の最後まで手放さなかった家宝という感じか。
もしくは学生がお金に困っても手放さなせなかった最後のフィギャー、ってか(笑)

(セイバー)

2012年7月17日火曜日

ミトコン(5)沈みゆく舟から

ミトコンドリアDNAは進化の指標としてよく使われる。
近縁種の類縁関係の推定にもよく使用される。

それはなぜかというと、ミトコンドリアDNAが核のDNAに比べて変異のスピードが20倍速いから、系統間の差が見やすいため。

ではなぜ、核のDNAより変異速度が速いかというと、ミトコンドリアDNAがダメージを受けやすいから。

ミトコンドリアは呼吸器官であるが故にダメージを負いやすい。

呼吸に伴って電子伝達系で酸素分子が水分子に還元される過程で、反応性が高い凶暴な活性酸素(ROS)が不可避的に発生する。

それがミトコンドリアDNAを傷つける。



(ROSのイメージ、Fate/Zeroよりバーサーカー)


ミトコンドリア中にDNAがある限り、DNAはROSにより傷付くことになる。

全ての生物でミトコンドリアに本来あった遺伝子が核へと遺伝子が移動しているが、その理由もここにあると考えられている。



DNAを核に避難させることは、安全なシェルターにDNAを避難させるようなもの。

沈みゆく舟からヒトが逃げゆくようにミトコンドリアからDNAが核へと逃げていっている。



それに加えて、核で一括して細胞のオルガネラの制御ができた方が都合がよいのであろう。

細胞は地方分権ではなく中央集権なのである。
ミトコンドリアの自治裁量を大きく認めることは細胞を危うくするのであろう。

2012年7月16日月曜日

スイスのワイン

パンの話しをしたところで

対になるワインの話しをしなければ片手落ち。

パンとチーズとソーセージとワイン。
まあ、ここいら辺がスイスの入門コース。

残念ながらスイスのワインはほとんど国外に出回らない。

美味しくないわけではなく、単に生産量が少ないためだ。



産地としてはレマン湖の北側の日当りのよい湖岸等にぶどう畑が広がっている。

(レマン湖は左下のジュネーヴに面した湖)





この比較的温暖で風光明媚なレマン湖のほとりの地区にオードリー・ヘップバーンも引退後死ぬまで住んでいた。



(ガンダムユニコーンより、オードリー・バーン)

レマン湖の都市モントルーでは毎年ジャズフェスティバルが開かれており、あの伝説のロッカーの像も湖のほとりに立っている。