2012年5月31日木曜日

清水の舞台から飛び降りろ!

昨日、トランスポゾンを採上げたのにはわけがある。

トランスポゾンはいつも活発に増殖している訳ではない。

もしそうなら、あっという間にヒトのゲノムはトランスポゾンだらけになるだろう。
(もうすでに40%も乗っ取られてはいるが、笑)



(図中の利己的遺伝子のうんちくに関してはいずれまた)

*ここで遅まきながら、
トランスポゾンには転移するだけでコピー数は増えないDNA型と、元の部位に居続け、コピー数を増やすRNA型(レトロトランスポゾン)がある。


http://www.cb.k.u-tokyo.ac.jp/cb/coe/hujiwara_20050221.pdf


http://ja.wikipedia.org/wiki/レトロトランスポゾン


実はトランスポゾン部位のDNAはメチル化されていて不活性化している。
そのため、トランスポゾンがウイルスのように増殖の猛威を振るう事は通常はない(安心して下さい)。

DNAのメチル化が低下するような変異体ではトランスポゾンが暴れ回り、生物にとっては大打撃になる。
逆に言えば、DNAのメチル化がいかにこのトランスポゾンという魔物の護符になっているかが分かると言うもの。


図左はシロイヌナズナの野生型。右はDNAメチル化が減少した変異株。トランスポゾンが暴れ回って、様々な表現型の子孫が生じる。

http://www.nig.ac.jp/jimu/soken/setumei2012/kakutani.pdf


ではどのような時に、トランスポゾンはコピー数を増加させるのであろうか?
これは生物進化と絡んだ話しとなり、かなり面白い。

一般論で言うと、生物がストレスに曝されるとトランスポゾンが活性化して転移・増殖する。

植物では高温ストレスで活性化する"ONSEN"と命名されたトランスポゾンが見つかっている。

http://first.lifesciencedb.jp/archives/2508

当然、DNAのメチル化が低下しているのではと予想されたが、話しはそう単純ではないらしい。

ストレス --> トランスポゾン活性化によるゲノムの大規模な変革 --> 生物の進化
につながっているのではないかと考える研究者がいる。

ストレスに曝されて生きるか死ぬかという時には、どうやら生物は一か八かの大博打に打って出るのではということ。

細胞内で突如トランスポゾンが目覚め、それによりゲノムがトランスポゾンの増殖・挿入によって、ほとんどの細胞(99%以上)ではトランスポゾンがそのゲノムに致死的なダメージを与えるだろうが、中にはたまたまストレスに生き残るようなラッキーな変異が生じる、と。

どうせ死ぬなら、清水の舞台から飛び降りるか、的な。

この仮説は魅力的ではあるが、まだ検証されていない。
(そもそも進化という分野の学問は検証が難しい)

そもそも、子孫に伝わる細胞である生殖細胞でこのゲノム改変が起こっているかはよく分かっておらず、それが起こっていないとしたら、進化の原動力とはなり得ない(動物の場合、体細胞で起こっても意味なし)。

しかし、ゴミにも何か合目性がある、と信じたい研究者の気持ちは痛い程よく分かる。


ポケモンキャラのようなある方向への進化ができればいいのだが、トランスポゾンはゲノムにランダムに挿入されるため(どこに挿入されるかは決まっていない)、無方向性の進化になる。多様性を増すのも重要だけど。

2012年5月30日水曜日

染色体上のごみ

生物の研究者(自分も含めて)は、生物は合目的にできているという前提に立って議論する。

何億年もかけて進化してきた今の形、遺伝子に対して、それなりに生き残るのに必要な意味を求めてよいのでは、というスタンスである。

それはある程度正しい態度だと考えている。

しかし、生物は常に変化しているものでもあるという視点も忘れてはなるまい。

人間においても、その進化は非常に微々たるもので気付かれないだけで、我々のこの形が究極の形である訳ではない(つまり、完全に目的に叶ってはいない部分もあるということ)。

現に、ちょっと食べるものが柔らかくなったからという理由で、顎が小さくなり親不知が生えない人が多くなってきている(当方も一本も生えていない)。

このような事例は沢山あり、人間も暫時的に変化している。


前置きが長くなったが、

今回は染色体上にある増殖するゴミの話し。

トランスポゾン、動く遺伝子、というのがゲノム中に存在する。ヒトゲノム中にもある。

それは、どこからか(恐らくはウイルス由来)生物のゲノム中に侵入し、ゲノムを蝕むもの。。

これはある配列をもつDNAなのだが、自分を複製してゲノム中で増殖する。
宿主の形質にプラスになるような働きはしない(完全にないわけではないが)。

働かず、自分はコピーをちゃっかり次世代に残すと言う、いい気な居候のようなものである。

これが、ヒトの場合にはゲノムの40%くらいをこの居候が占拠しているというから、驚きである。

http://ja.wikipedia.org/wiki/トランスポゾン

もう居候どころか、ゴミである。

一旦増えた、トランスポゾンは減らない。コピーをつくっては違う場所に押し入ってゆき増える一方である。

どうなる、ヒトゲノム!?
って将来が心配になる。

このゴミも進化とかどこかで役立ってんじゃね、的に考える向きもあるが、やっぱり、ゴミはゴミでしょ。

かなりゲノムに負担、迷惑をかけている。
複製の手間だけでなく、こいつが遺伝子部位に挿入されると遺伝子が破壊される!

それを利用して植物では品種改良も行われている(当時はトランスポゾンのことなぞ全く知る由もなく)。


トランスポゾンが移動、挿入されてできた朝顔の新品種。

http://www.shigen.nig.ac.jp/shigen/news/n_letter/2006/newsletter_v2_n3.html

ゴミの日に出せたらいいのだが。。



おー、今回は清々しいくらいアニメが全然絡んでこなかった(笑)

2012年5月29日火曜日

双子とワンちゃん(第2夜)

昨日のブログの続き

今日の授業でも話したが、
ヒトはこれまで交配選抜育種法で数多くの動物を家畜化し、植物を栽培品種化してきた。

植物の場合、効率的に遺伝的多様性を新たに生じさせるために放射線を当てて遺伝子の変異を促すことも行われたりするが、個人の好事家が趣味で犬や薔薇の品種改良をする場合そんなことはしない。
しなくても新しい品種を誕生させることができる。

それは多分に「エピジェネティック」な現象に起因すると考えられてきている。

遺伝学的を意味する「ジェネティック」の上を行くもの「Epi」を接頭語につけたエピジェネティックな現象とは、DNA配列だけでは語れない現象を意味する。

遺伝子はDNA上に暗号化されている。
それはいい。

しかし、その遺伝子が読み取られる(転写されてmRNAがつくられる)なければ、その遺伝子はないに等しい。

実は、遺伝子をいないものにしてしまう現象がある。
以前、X染色体で述べた現象であるが、その場合には、一本丸々女性の細胞ではX染色体がいないもの扱いされている。

一方、そんな大規模ではないが、常染色体にあっても、染色体のところどころがいないもの扱い、つまり遺伝子が読み取られない状態に不活性化している。

その現象の原因の一つが、DNAのシトシン(C)のメチル化がある(CGという配列のCがメチル化される)。このDNAのメチル化修飾により、その部位の遺伝子の読み取りが抑制される。

http://ja.wikipedia.org/wiki/DNAメチル化

DNAのどの部位のシトシンがメチルされているかによって、同じDNA配列をもつものであってもその形質が異なることになる。


精子と卵子にそのDNAメチル化パターンが伝わるが、受精後それが一旦チャラになり、また発生過程で再構築されると現在は考えられている。その時のDNAメチル化はすべてのCG配列に起こるわけではなく、どのようにどこがメチル化されるのかがどのように決められるのかまだよく分かっていない。


しかしこれならば、DNA配列が同じ犬から短期間に別の品種ができることの説明がつく。
それが犬が短期間で多品種を産み出した原動力ではないか、ということ。

そして、一卵性双子がどうして微妙に違うのかを説明しうる。


               蛯原友里さんと妹の英里さん


しかし、このDNAのメチル化パターンはある程度、親から子へ伝わるのでないか。

DNAメチル化の違いで品種の違いができるという大前提で話しをすれば、
もし全てDNAのメチル化パターンがチャラになれば、ちわわからグレートデンが産まれる可能性だってあるが、ちわわの子は相変わらずちわわである。

このエピジェネティックが現象こそが「氏より育ち」(遺伝子より環境)ということではないかと考える向きもある(環境がDNAメチル化に影響を及ぼすならば)。


このDNAメチル化現象は解析が進んでいないため確定的なことが言いづらいが、今後も遺伝子を超えた面白い現象がたくさん見つかる可能性を秘めている。



鉄(くろがね)のラインバレルより遠藤シズナ、イズナ(男と女なので一卵性双生児にあらず、残念)


双子とワンちゃん

ヒトは非常に短期間でさまざまな動物を家畜化、ペット化してきた。

例えば、犬。
犬は狼をペット化したものであるが、犬の中でまた様々な犬が作られ続けてきた(現在も)。
シェパードとちわわは同じ種であり、子供も作れる。





そんな短時間で多様な種内変異が生じるものであろうか?

ブリーダーは犬に放射線でも当ててDNA変異を促しているのか? 

一般的にDNAの配列の変化が進化の原動力と考えられているが、実はDNAは変化しなくても形質、表現型が変化することが最近分かってきた。

それを示唆するもう一つの好例が、一卵性の双子である。

一卵性双生児は同一の遺伝子をもつクローンである。
しかし、その形質は全く同じという訳ではない。

それはなぜなのだろう? (次回に続く)


(これは残念ながら双子さんではなく、パソコンで作ったものだそうだ)

*一卵性双生児は創作ネタにもよく使われる。


麻生元総理愛読書『ローゼンメイデン』より蒼星石と翠星石
(アリプロの主題歌は良かった、と独りごちる)


ひぐらしの鳴く頃に(魅音と詩音
ボーカロイド(鏡音リンとレン
ヴァンパイア騎士(桐生零と壱
らき☆すた(つかさとかがみ
ローゼンメイデン(蒼星石とそうせい石
BLEACH(黒崎柚子と夏
家庭教師ヒットマンREBONE(ベルフェゴールとその兄
銀魂(伊藤とその双子
DーGrayman(ジャスデビ
マシュマロ通信(チョコとミント
悩殺ジャンキー(苺と楓
まりあ・ほりっく(しずとまりや
ブラックラグーン(ヘンゼルとグレーテル
クラナド(藤林杏と藤林椋
東京バビロン(昴流と北斗
タクティカル・ロア(真夏と真秋
桜蘭高校ホスト部(光と馨
ハートの国のアリス(ゲーム
07-GHOST
おおきく振りかぶって
シュガシュガルーン(ウーとソール
DOGS(ルキとノキ
ぴちぴちピッチ(海斗
xxxHOLIC(モコナ
ツバサクロニクル
いぬかみ
ふしぎ星のふたご姫(ファインとレイン
DNエンジェル
ガンダム00
君と僕
テニスの王子様(アニメオリジナルキャラクター
S・A(スペシャルエーでめぐみと純
僕になった私
双恋
ガンダムシードデスティニー(キラとカガリ
鉄のラインバレル
学園天国
棺担ぎのクロ
魔法先生ネギま!


おー、なんとまぁたくさん。

2012年5月28日月曜日

田に水入らる

膿み(今、我がパソコンは「うみ」を変換すると「膿み」、「かのう」は「化膿」、「はれ」は「腫れ」となる仕様)が出され、今日は昨日に比べて大分体調はよくなった。

ありがとう、歯医者さん!


大学の西には田圃が広がる生産緑地地区がある。
この週末は、田圃に水が張られて、田植えが盛んに行われているようだ。

田圃に水が湛えられると生態系は一変する。多彩な虫類が集まり、またそれを求めて補食大型動物が集ってくる。

五位鷺(ゴイサギ)が優雅に歩いていた。大型で立派な鷺である。
朱鷺もそのうち全国に広がればうれしい。


http://www3.famille.ne.jp/~ochi/bird/goisagi-1.html


カモメも餌探しに空を待っていた。

田圃で、メスを求めるオス蛙がやかましく鳴き始めるのもじきだ。

2012年5月26日土曜日

切開

今日、歯痛の化膿が更に悪化して微熱まででてきたため、再度歯医者に行った。

膿みがかなり溜まってきてますね、切って膿みを出しましょう、と局所麻酔注射され、メスで切開され、指で患部をしごかれ、膿みを出し(でるわでるわ)、レーザーで傷口を止血、殺菌した。

以上、所要時間5分余り。

歯医者に行っていつも思うのは、麻酔よ、いつもありがとう。
麻酔せずにメスで切られたら死にます。


日本人として誇れるのは、全身麻酔を最初に手術に使ったのは日本人、華岡青洲。
(母と妻を犠牲にしてまで麻酔を完成させた逸話は、予防接種を開発したジェンナーを想起させる)


ところでよくドラマで、クロロフォルムを沁ませたガーゼで口を覆われてすぐに気絶するシーンがあるけど、あれは嘘なので(気絶せず気分が悪くなるだけ)、良い子のみなさんは絶対まねをしないように(笑)

*クロロフォルムは分子生物学では、よくフェノール(昔病院に行くと臭っていたあの臭いの元、強力なタンパク質変成作用を持ち、そのため殺菌剤として使用された)と等量混ぜて(フェノクロ)、DNAやRNAを細胞から抽出する際に用いられる。

麻酔と言えば、



で決まり! (笑)

2012年5月25日金曜日

マッチョマウス

生物にとって(人にとっても)、大事ではない遺伝子というのは基本的にない。
進化の過程で保持されていることの一点において、なんらかその生物の子孫継承に役立ってきた筈である。

現在の生物学(分子生物学、細胞生物学、発生生物学のいずれにおいても)では、ある遺伝子産物(タンパク質)がどのような働きをしているのかということの解明が進んでいる。
しかし、ある意味、それはタンパク質のカタログ化である。

こういうと、世界のどこにどんな動物や植物がいるのかという博物学的研究のように聞えてしまうが、ある意味そうである。どんな遺伝子があって、どんな働きをしているのか、その総カタログを作成しているようなものである。

ヒトにはおよそ23000の遺伝子があるが、その大半はその働きはよく分かっていない。

遺伝子の働きを知る、調べるための手法としてよく使われるのは、その遺伝子を狙い撃ちで欠損させて(ノックアウト)それにより、表現型にどのような変化が現れるかを調べるというものである。

例えば、ネズミのある遺伝子を破壊した事により筋肉が増加したら、その遺伝子は筋肉の増加に対して抑制的に働くことが予想される。

実際にそんなマウスが作られている。
(マウスは哺乳類動物の中では遺伝子破壊が比較的容易に行える種なのでよく使われる)

右側がミオスタチンという遺伝子をノックアウト(KO)したマウス。ミオスタチンを欠いた右側のマウスの筋肉量は、野生種(左)の4倍になるそうな。


こちらもミオスタチン欠損のすごすぎる牛


それとヒト!


(多分家系。遺伝子改変はされていない筈ですよね)

はい、これはまさしく『グラップラー刃牙』の世界ですね。



このように、
ミオスタチンは筋肉成長を抑制する因子であることが示唆された。

ミオスタチンが何のためにあるのか?
筋肉が多い方がいいじゃね?
と思ったひと!

ミオスタチン欠損個体の問題としては、皮下脂肪が極端に少なくなる。食べる量がはんぱない。
食べ物に制限のある自然界では、筋肉が維持できず、皮下脂肪も少なく、野生種より餓死しやすいと思われる。野生の動物では明らかに淘汰されてしまう。

すでにマンガ『嘘喰い』にミオスタチン欠損のマッチョ刑事が登場しているが、あまりまだ有名ではない、かな?



2012年5月24日木曜日

口の中の客

昨日の歯痛の続きネタ(笑)

今日は痛みは鎮痛剤で押さえられるようになったものの、歯の付け根の上部が細菌感染による化膿により腫れが始まった。昼より今さらに違和感がある。

右頰半分が宍戸錠に(泣)



「口の中には数百種類以上、数億個以上の細菌が棲息しており、実は細菌の数は肛門よりも多く、口の中は人間の体の中でもっとも多くの細菌が棲息しているのです!」

というコピーには笑った。そこと比べる?




抗生物質(自分の細胞である真核細胞には効かず、感染した原核生物のみに効く)と鎮痛剤を出してもらった。

http://allabout.co.jp/r_health/healthdb/medicinedb/detail/355086/index.htm

http://ja.wikipedia.org/wiki/セファロスポリン

これは細菌の細胞壁合成を阻害することで溶菌へと導く。
同様な作用機序のものとしてはペニシリンが有名。

今、抗生物質と細菌(残念ながら敵の種類は特定できず)が今激しく戦っているのだ。
その屍骸も膿みとして顔の膨張に一役買ってくれている (^ ^;

ただ、こちらもご他聞に漏れず、耐性菌が出現しているとのことで、安閑とはしていられない。
完治を願う。


捕捉だが、
原核生物はかなり真核生物と細胞を異にしているため、その違いを薬で攻撃しやすい。

一方、真核生物の病原菌に体が蝕まれるとやっつけるのは難しくなる。
例えば、水虫菌(Trichophyton ruburum)は真核生物。
水虫が根治しにくいのはそのせい。
ただ、真菌にはヒトにはない細胞壁があるので、そこを狙う薬も売られている。
お酒をつくる出芽酵母の仲間のCandida albicansもカンジダ病を引き起こす。エイズのように免疫不全になっている患者では猛威を振い死に至らしめることもある。

うちの子(セレビ)はそんな悪さをしないので、安心して研究室に遊びに来て下さいね(笑)

2012年5月23日水曜日

無痛症

今日は歯の付け根が炎症(細菌感染によるものらしい)を起こして、夜中から痛さで眠れぬほど。

今日の授業は何とかこらえた(流石に授業をやっていると熱中して痛みが薄れる)。

午後に予約を入れて歯科に行ったのだが、段取りがあるらしく今日はその炎症を取り除く治療はしてもらえず、鎮痛剤と抗生物質の処方箋が出された。しかも、鎮痛剤の効きが悪く(多分痛みがそれを上回っているため)、数時間でまた痛みに悩まされている。

痛みに悩まされると、痛覚などなければいいのに、と思うが、この痛みが自分の体の異常を教えてくれていると思って我慢しなくては。

無痛症という病気があるが、それはそれこそ、怪我をしても病気でも気が付かない。これは重大事。

http://ja.wikipedia.org/wiki/先天性無痛無汗症

無痛症はフィクションの格好な題材となる。
今日は痛くてまとまったことが書けないのでこの辺で。

『空の境界』痛覚残留

浅上藤乃は無痛症と、事件をきっかけに時折戻る痛覚のため悲劇を引き起こす。





女は男のXを見る

竹内久美子さんの著作の題名に『女は男の指を見る』(新潮新書)というのがあるが、

それにあやかって、今回は「女は男のXを見る」

男性にはX染色体が一本しかないために、X染色体上に乗っている遺伝子がよい遺伝子か悪い遺伝子か、それはすぐに体に現れるため、女性はそれを見分けることが可能である。

一方、その他の2本ずつある通常な染色体(常染色体)ではこうはいかない。
片方の染色体上の遺伝子が良くなくても、もう片方の染色体上の遺伝子が良ければ、見かけ上それが覆い隠されてしまうからである。

女性は結婚した男性から遺伝子を半分もらって子を為すわけだから、当然男性からもらう遺伝子はいい遺伝子をもらいたい。もし、男性が半分よくない遺伝子をもっていたら、1/2の確率でそれが子供に引継がれることになる。それは困る。しかし、それは願っても叶わぬこと。

仕方なく、絶対に見誤らぬものを頼りに男性を選ぶしかない。

それが上記のX染色体上の遺伝子である。

男からしたら、Xのみが偽らざる看板である。

X染色体上にどのような遺伝子がたくさん乗っているかと、前回述べた免疫に関係する遺伝子が12個。
それ以上にX染色体上にたくさん乗っている遺伝子が知能に関係する遺伝子。
およそX上に1000ある遺伝子のうち200が知能に関与する遺伝子である。

女性が男(の遺伝子)の良し悪しを判断する際に、X染色体に乗っている遺伝子で判断しようとすると、男性の知性で判断するのが無難ということになる。

これはもしかしたら、因果関係は逆かもしれない。
女性が知性のある男性を好きだったために、X染色体上に知能に関係する遺伝子が集ったのかもしれない。一旦、そういう流れができればその傾向が加速することになる。

かくして、女性のこの好みで男性が選ばれ続けた結果、ヒトは他の動物に比べて図抜けた知能を獲得するようになったと考えられる(この理論にはまだ検証しなくてはならないことがある。例えば近縁種のゴリラの場合にはX染色体上に知能遺伝子の代わりにマッチョ遺伝子が沢山あるのか? とか)。



しかし、知能に関する遺伝子がXに多いため、Xを一つしかもたない男性は女性に比べて知的障害の割合が多い。これは免疫力で男が劣っているのと同じ理屈だ(え? 男の方がアホということ?)。

看板Xは男性にとって死活問題なのである。


2012年5月21日月曜日

男はよわいよ

人では婚期での男女比が約1対1になるようになっている(正確にはなっていた)。

昔は(と言っても人類、哺乳類の辿ってきた歴史からしたらつい最近のこと)男の子は幼少期に女の子に比べて死にやすかったため、より多めに男子が出産される傾向がある。
(出生時の男女比は104:100)

戦後、医療の発達で男の子が死ななくなったため、その比が大人になっても維持されることになり、現在では、婚期では男が余り気味になるという不幸(男の)が現出している。

死んでも困るし、死ななくて結婚できなくても困る(男は損だ)。


今回は、なぜ男の子は病気等にかかり死にやすいか、という話し。

2005年、X染色体(またX染色体です、笑)のゲノム解析が完了し、どのような遺伝子がX染色体に乗っているのかがおよそ分かった(勿論働きの分かっていないものはたくさんある)。

その中で、免疫に関係する遺伝子が数多く見つかった。

男性はXを一本しかもたないため、X上にある遺伝子欠損による障害、いわゆる伴性遺伝を起こす。
それに対して、女性はXXと二本もつため、片方が遺伝子欠損であっても、もう片方のX染色体上の遺伝子が正常であればそれで補われるため、障害が表に出ない。

男性は生まれつき、Xを一つしかもたないため免疫力が弱いようなのだ。
そのため、風邪に始まって感染症全般において男性の方が感染しやすい。

免疫力が強ければ生涯を通じて病気で死ぬ事も少ない。
女性が長生きなのもむべなるかな(日本では女性の平均寿命は男性より7才も長い)。


Xを一つしか持たない男性はこの他にもXにコードされている遺伝子が原因で様々な不都合に見廻れることになる。

残念な男の物語は続きます。


(参考図書)

性を決めるXとY―性染色体と「男と女のサイエンス」-ニュートンムック


X染色体ー男と女を決めるもの(青土社)

2012年5月20日日曜日

クレーと加藤郁乎

週末は趣味のことなど


芸術作品はそれを制作した作家に属するのか?

これは法律上の所有権の話しでは無論ない。


作品が一度公にされれば、その解釈については言葉通り「オープン」になる。

例えば、このパウル・クレーの絵



これをどう見るか、これを見てどのように感じるか、何が書かれていると感じるか。

それは人それぞれで異なる。そしてその感受性の多様性が芸術の豊かさをもたらす。
鑑賞者にオープンに開かれていることが作品の価値を高める。
その作品、作家に付随する情報に関して知っているか否かは二義的な問題だ。

もしクレーがこの絵は『宝物』という題名で、私の宝物を描いた、と言ったとしても、それに縛られる必要は本質的にないのである。それを鑑賞の参考にすることはあっても。

パウル・クレーは好きな画家の一人、




この絵も純粋にいろいろな色のハーモニーを堪能すればよく、この絵の題名『花ひらいて』はひとまず横に置いておいてもその味わいを玩味することはできる。


16日、畏敬する俳人である加藤郁乎が亡くなった。


俳句は季語を入れて五七五でつくる、と学校で教えるが、季語を入れて作る、というのは、そういうことを唱えた人もいる(高濱虚子)という程度で、それが俳句のルールではないのである。

咳をしても一人  尾崎放哉

これも俳句。季語もなく、自由律と呼ばれ五七五でもない。

絵画に千差万別の流儀があるように、俳人も個々の信条に従っていくつもある流儀の中から自分に一番しっくりするものを選ぶ。

ちなみに虚子の唱えた花鳥諷詠俳句観に共感して俳句を作っている諸氏は自らの俳句を「伝統俳句」と号している。彼らは自虐的に「伝統俳句」と言っているのでも、ふざけて言っているのでもない。本気で言っている。

伝統芸能という言葉はあっても伝統芸術という言葉はない。
本来、芸術は伝統化してはいけないものであり、「伝統」と「芸術」は相容れないものである。

つまり、「伝統俳句」と自称しているということは、自分らの俳句は芸術ではないということを宣言しているに等しい。

芸術とは常に新規さを求めるものである。同じ作風をなぞることを信条とするものを我々は芸術とは呼ばない。それがパロディーならいざ知らず。今、モーツァルト風の音楽を書いても小器用ですね、と言われるだけだ。

芸術の定義からすれば、アバンギャルド(前衛芸術)こそ(この言葉が死語かどうかはともかく)、芸術家が目指すべき地平である。

ピカソが絵画におけるアバンギャルドの代名詞とすれば、俳句のそれは加藤郁乎である。


かげろふを二階にはこび女とす   郁乎
メタフィジカ麥刈るひがし日を落し
とりめのぶうめらんこりい子供屋のコリドン
牡丹ていっくに蕪村ずること二三片
粟の花のててなしに来たのだ帰る


アバンギャルドを具現化した郁乎俳句は約半世紀経っても衝撃的であり、俳句の一分野(上述のように伝統芸能を自負している俳句集団もあるし、ひとくくりに俳句とは、とは言えない)が芸術足り得るのかという問を今に投げかけている。


郁乎が亡くなり、郁乎の俳句は鑑賞者へバトンを渡された。
それは気概という名のバトンである。

2012年5月19日土曜日

うさこちゃんとうみ

小さい時に読んだ『うさこちゃんとうみ』



あるひ とうさんの ふわふわさんが、 「きょうは さきゅうや かいのある おおきな うみに いくんだよ。いきたいひと だあれ?」といいました。

と、うさこちゃんをお父さんが海に誘います。

子供には何の違和感もない話しだが、やはりこれはおかしい。

ウサギが会話している件ではなく、お父さんがいる件である。


猫でも犬でもお父さんは子育てしない。

なぜ、猫、犬、ウサギは父親が子育てをしないのか。

遺伝子的な父親はいても、子育てに参加する家族を構成する父親というものは彼らには存在しない。

メスの場合、自分がお腹を痛めた子は絶対自分の遺伝子を受け継いでいる。

それに対して、残念ながらオスにとって産まれて来た子供が絶対自分の子供であるという確証がない。
そのため、オスは自分の子か分からない子供の子育てに協力しない。


メスは必ず自分の子供であるという確証はある代わりに、子育ての義務を負う。





残念ながら、ピーターラビットのようにウサギは母子家庭なのだ。
(お母さんは、お父さんはマクレガーさんにつかまってパイにされたと言っているが、お父さんが積極的なイクメンだったかは明かされてはいない)


では、なぜ人の場合、お父さんが子育てを手伝うのか?
(手伝うというと主体的にやっていなさそうな言い方になるが、以下に述べるように事実その通りなのである)

基本的に子育てをする動物はメスが子育てをするが、どうしても必要とあらばオスの手も借りたい、という局面が生じる。

分かり易い例としては、ツバメ。

http://shirakawanosato.sakura.ne.jp/album/bird/bird1/tubame.html

ツバメは蚊や蠅などの昆虫を飛び回って集め子育てをするが、当然、何匹もいる子供を育てるに十分な餌はメスだけで集めるのは大変である。オスが手伝ってくれれば、メスだけの場合の2倍の数の子供を育てることができる。オスにもメリットがある。

その場合オスは自分の子供との確証を得るために、そのような動物では一夫一妻性をとる。

メスにとっては、この子はあなたの子です、とオスに信じてもらえるような信頼関係を構築することが重要である。


ヒトの場合、赤ちゃんはお母さんよりお父さんに似る傾向があるという調査結果が出ている。
これは子供にとっても「おとうさん、僕(私)は間違いなくあなたの子供です」とお父さんに訴えかけて、子育てに積極的に参加させるためと解釈されている。

女の子が産まれて、看護師さんから「お父さん、そっくりですね」と言われようものならお父さんはメロメロになる(笑)

そのうち、十分お父さんの信頼を子供が勝ち取った頃に、段々と子供はお父さんに似る努力をやめてお父さんにもお母さんにも均等に似てくるようになるという。

なんという小賢しさ、というなかれ。
子供も必死なのだ。

お父さん、子育てに参加しましょう。



2012年5月18日金曜日

ハエの武蔵

遺伝子の名前(ネーミング)は大事である。


間奏曲的に、今回は面白遺伝子名紹介。


有名どころからまず、


Musashi

この遺伝子を欠失したハエは剛毛が2 本づつ形成される。



この遺伝子は二刀流の宮本武蔵にちなんでmusashi と名付けられた。



一発で覚えた(遺伝子の働きはともかく、笑)。
(RNAに結合し細胞分化を制御するタンパク質である)


遺伝子の名前はかくも大事である。

これはNeuronという一流誌に掲載された。
筆頭著者の中村真さん(現松山大学)がアメリカで行った仕事のようだ。
日本人だけの内輪受けといったところだが、いんじゃないかな、こういうのも(笑)

新規のタンパク質、遺伝子を見つけた人がその命名権をもつ。
(ヒトの場合、ゲノムの配列はほとんど分かっているのでどんな配列の遺伝子があるかはすでに既知だが、その働きが分かっていないものがまだまだたくさんある。その機能を明らかにすれば命名できる)


頑張って新しい遺伝子見つけよう!


残念ながら、当方が研究している出芽酵母では遺伝子名は、アルファベット3文字+数字、と決められてしまっているため、どんなに強そうな遺伝子を見つけても(どんな遺伝子だよ)、GundamとかEvangelionとか命名できない。


(あくまでも遺伝子のイメージです)


Eva1とかなら狙えるが(まだ未登録でした、笑)。

出芽が角のようになる変異体酵母を見つけたらこれだな。





(参考)
Neuron Volume 13, Issue 1, July 1994, Pages 67–81

Musashi, a neural RNA-binding protein required for drosophila adult external sensory organ development

Makoto Nakamura, Hideyuki Okano, Julie A. Blendy, Craig Montell

Department of Biological Chemistry and Department of Neuroscience The Johns Hopkins University School of Medicine Baltimore, Maryland 21205, USA

加藤郁乎さんの想い出

畏敬する詩人、俳人の加藤郁乎さんが亡くなられた。



http://ja.wikipedia.org/wiki/加藤郁乎


加藤郁乎さんの想い出、と語り始めたが、交流していただいた期間は極めて短い。
(こちらが私淑させていただいた期間はもう少し長いが)

しかも、直接お目にかかったこともない。

昨年の「豈」第52号の拙文「郁乎の遺風」を目にされて郁乎さんからお手紙を頂いたのがご縁の始まり。

その縁で、2ヶ月前の3月に加藤郁乎賞の受賞式に呼んでいただいた。

お会いできるのをとても楽しみに東京まででかけたのだが、

急遽入院されて式には出席されなかったので結局はお会いできなかった。

その際、同席していた大井さんはよくあることだから、と笑っておっしゃっていた。


お会いできずとても残念ですとの手紙を奥様に託したのだが、その後退院された後に、そのお返事をいただいたばかりだった。

「為すべき仕事山程あるも先ずは自愛に努める所存」と書かれていたのだが。


あまりの喪失感に、まとまりのあることをかけない。

一人靜鬼に折らせて靜かなる 郁乎


ご冥福をお祈りする。



2012年5月17日木曜日

平たい顔族

ロマエの「平たい顔族」ネタから、

最後の氷河期が終わり海面が上昇して、日本列島が大陸から孤立した約1万2000年前にはすでに日本列島には人が住んでいた。それが縄文人であり、彼らは狩猟、木の実の採取を行い糧としていた。


縄文人は彫りが深い顔立ち、しっかりとした目鼻立ち、二重、体毛や髭が濃い。アイヌの人達を想起して欲しい(沖縄とアイヌの人達の関連はまだ論争があるようである)。


その後、大陸から北九州から近畿地方にかけて大陸から移り住んできた民族がいて、それが弥生人と呼ばれ、稲作農耕文化を伝えた。そのため、遺伝学的にみても近畿は弥生人度が高い。

http://native.way-nifty.com/native_heart/2008/08/post_85e3.html
(このデータに関西が含まれていないのが不思議)

弥生人は寒い寒冷期に大陸で進化し、体毛が少なく髭は少ない(雪とかがついて凍らないためと言われているが)、顔の凹凸は少なく目は細い。特徴的な「平たい顔族」はこの人達だ(ローマ人からみたら縄文顔も五十歩百歩で平たかろうが、笑)



みなさんはどっちに近いだろう?

その後、2つの民族の混じり合って日本人ができた。
(弥生人であろう渡来系の天皇家は先住民を征服して王になった)

民族が違うと当然様々な遺伝型も変わってくる。

お酒の飲めない遺伝子(アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子)の変異を弥生人が持ち込んだとされる。そのため、お酒に弱い人は関西を中心に多い。逆に東北、北海道、九州の人(縄文人の末裔)はお酒に強い。


http://homepage1.nifty.com/koutarou/insyuidenshi.html


残念ながら、縄文人と弥生人の遺伝子の違いによる気質の違いに関しては調べられていないようだ。

縄文人はのんびり屋、弥生人はせっかち、とかなら、大阪人のあのバイタリティーに妙に合点がいくのだが(笑)


2012年5月16日水曜日

女はつらいよ

前回に関連した話題として…


近縁種のチンパンジーのメスが死ぬ直前まで閉経しない(子を産める、死ぬまで現役)のに対して、ヒトの場合は子を産めなくなった後の人生が長い。

http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/special/2011081700002.html


様々な動物を観察すると、どうも人間は特殊なようだ。

つまり、ヒトの女性は現役で長生きするより閉経して長生きすることになんらかの合目性がありそうだ。

そこで登場するのが「おばあちゃん仮説」

http://ja.wikipedia.org/wiki/おばあさん仮説

祖父母が子育て(孫育て)に貢献しているという、日常生活で想像できるような結論が調査で判明している。
祖母が長生きするほど孫の数が多くなる(生き死にまで影響を及ぼしているんだ)。
祖母力はすごい!



しかしここで問うているのは、自分で直接産み続けることより遺伝子が増やせるのか?、と言う点である。
なにせ、子に伝わる自分の遺伝子は1/2なのに対して、孫に伝わる自分の遺伝子は1/4と更に半減する。
つまり、自分で1人産むのに釣りあうためには、孫が2人増えなければならない。 

ほとんどの現象にはメリットに付随する発生するデメリットが存在するトレードオフの関係がある。


年をとって自分が子を産むことのデメリットとして考えられるのは、

1. 年を取りお産が大変になるとお産で死ぬリスクが高まる。
2. 年をとって産む子供にはダウン症のような染色体異常が増加して、子供を作ることのメリットが減じる。
3. 孫育てのお手伝いくらいならばともかく、子育てを主体的に行うには年をとってしんどい。
4. 子供が育つ前に自分が死んでしまうかもしれない。

*女性の場合、卵子は胎児の段階で途中まで準備されてそれが排卵まで卵巣内でずっと待たされている。排卵が近づくと、さらに分裂が進んで卵子ができるが、卵子が年をとっているとこの段階での染色体の分配異常が生じて、異常な染色体をもった卵ができてしまう(卵子を途中までつくってとめていることの合目性は何か? 調べてみる)

http://www.miyake-clinic.gr.jp/ippannsikkann/ippan18.htm

ヒトの場合、子を産むより育てることの方が数倍も手間暇かかる大変なことである。
ヒトの子供はなかなか親離れできず、長い時間手をかけてやらないと独り立ちできない。

孫はかわいいというが、ときどき面倒を見るからこその可愛らしさである。
お手伝いくらいがちょうどいいのかも。

しかしそれを言うのなら、男性でも女性並みの年齢で現役から引退してもいい筈であるが、男性はそうならない。世界最高齢で父親になった男性として、94才で子を生したインドの男性がいるらしい。


総合的に考えたら、やはり、1, 2が要因としては大!?

いつまでも子供なんか産んじゃいられない、女はつらいのだ。





2012年5月15日火曜日

女性のウエスト

生まれたての赤ちゃんが産着に包まれているのを見て男女を言い当てるのは難しい。

同様に、おじいさんとおばあさんが年をとると体も男女の性差が縮んで中性に近づく。

思春期に男は男らしく、女は女らしくなって行くのは、男性ホルモン、女性ホルモンの働きによる。
しかしある時期を過ぎると、男性ホルモン、女性ホルモンの減退することで中性に帰って行く。

女性のヒップが大きいのは安産型を示唆し、バストが大きいのはお乳がたくさん出そうなことを想起させる。そしてウエストが細いことは今妊娠していないこと(他の男の子供を身籠っていないこと)を示唆する、と言われている。このため、女性はコカコーラのボトル型のくびれの体型になる(勿論、コカコーラ社が女性の体型を模して瓶を考案したのだが)。




*バストは妊娠後に大きくなるので、バストが大きいことが妊娠のサインにならなかったのは不思議だ。

ただし、本当にウエストが縊れた女性を男性が好むのかは時代、部族による差異もあり、どの体型が男性の理想の体型であるかは自明ではない。

現在の自然科学は西洋から発祥してきたため、そこに西洋人の価値観が当然混入してきている。現在の日本人の美醜の価値観にもその影響は濃く出ている。その影響もあろうが、なぜ、日本人が西洋人を見て格好良いと思うのかは生物学的に不思議である。

人種の離れた外国人(西洋人だけでなく)に惚れる、と子を為す、ということが、生物学的にみて合目的であるかどうかは疑問である。というのは、鳥の場合、血脈的には近からず遠からずという血縁にある異性とつがう傾向が観察された。つまり、あまりに遺伝型的に遠い個体と子供をつくることが遺伝子にとってよいことかどうかは疑問である(雑種強勢にも限度がありそうだ)。


話しを戻すが、研究によれば、バストを大きくするだけでなく、ウエストを細くするにも女性ホルモンが働いている。そうならば、バストウエストは「私はこれだけ女性ホルモンが豊富な、女らしい女ですよ」とアピールする看板ということになる。


孔雀オスの飾り羽と同様に、女性も自分がいかに魅力的な異性かを体型で男性にアピールしている。

では、なぜ女性は死ぬまで女らしくしてくれる女性ホルモンが出続けないのか?

最も女性が女性らしくあるのは高校生くらいから40才くらいまで、いわゆる、伴侶を求める時期と一致している。

どちらが因果の因と果であるかは難しい問題であるが、女らしい体つきになっていることが異性にアピールするために重要である。その役割の時期がすぎると、女性ホルモンはお役御免となるのだ。

そのため、女性が中年になり女性ホルモンがその体型を保つための努力を放棄すれば(女性ホルモンが減少すれば)、体型が樽型になるのはむべなるかなである。

それに加えて、女性ホルモンが出続けることによるデメリット(危険性)がメリットを上回るのかもしれない。女性ホルモンは乳腺や子宮内膜の細胞分裂を活発化させるが、細胞分裂の活発化と同時に乳癌、子宮癌のリスクも高まる(細胞分裂を活発に行っている細胞が癌化しやすい)。


中年になり体型が多少崩れても、それは生物学的に言えば年を取るのと同様な必然の過程であり、嘆いても仕方のないことである。

むしろ、これまで十分働いてくれてありがとう、と女性ホルモンをねぎらうべきであろう。

適齢期の女性の体型は女性ホルモンというコルセットによってむりやりに現出された幻想の産物であり、コルセットが外れれば、体はくびきを解き放たれて自然の形に戻る、それだけに過ぎない。



2012年5月13日日曜日

女はモザイク

松本零士の銀河鉄道999「螢の街」の回

「真理子の螢」駅に降り立った鉄郎とメーテル。
ホテルの貧しい従業員フライヤを憐れみお金を恵んであげようとするが「私の何をお求めですか?」と施しを断られる。しかしフライヤから、もしよろしければ夜お金を持って私の家に来て下さいと告げられる。

鉄郎がフライヤの家を尋ねると、フライヤからアニメの演出家に将来なろうと思って書いた自信作の絵コンテを買って欲しいと告げられる。それを読み始めると部屋が停電した。

するとフライヤの体が光り始めるのだった。



そうこの星の人間は螢人間で、体の表面が光る。
全身がくまなく光る人間がもっとも美しいとされ、フライヤのようにブチ螢人間は卑しめられ貧しい暮らしを強いられている。


と長々書いてしまったが、この「ブチ」が今回のテーマ。

以前書いたブログ「男は男として生まれるわけではない。男になるのだ。:SRY遺伝子」で

オスとメスの細胞内で染色体の数を同じにするために、オスにしかないY染色体は、オスの細胞の中で鬼子扱いされている(ない方がいい)染色体である(オス化のSRY遺伝子を除いては)ということを書いた。

メスの細胞内でも鬼子扱いされている染色体がある。それがX染色体である。

おさらいすると、メスの性染色体はXX、オスの性染色体はXY。

オスにはYが余分だし、メスにはXが一本余分なのである。

Y染色体の場合は、染色体自体を矮小化して骨抜きにして遺伝子をなくしてしまうことでその難を逃れることができたが、Y染色体はそうはいかない。

なぜならば、X染色体はY染色体と違って堂々とした立派な染色体である。

ヒトの遺伝子(タンパク質のつくるための暗号)の数はおよそ22000、それが24本(常染色体22+XY)の染色体に載っている。
平均すると染色体一本当りおよそ900個。

 X染色体も約1000個の遺伝子を載せている。
(それに対してY染色体には78個!)

http://ja.wikipedia.org/wiki/Y染色体

http://ja.wikipedia.org/wiki/X染色体

X染色体上に載っている遺伝子の中には、神経細胞の働きに関わるもの、免疫に関わるもの、血液凝固に関連するもの、色覚に関わるものがある(男性に血友病や赤緑色覚異常が多いのはこのせいであるが、これに関してはいずれまた)。

このようにX染色体は重要なだけにY染色体のように粗略に扱うわけにはいかず、細胞にとっては頭の痛い問題であった事だろう。

では一体、細胞はその難問をどのように解決したのか?

細胞が編み出した方法は、実に単純なものであった。

2本あるX染色体のうちの一つをいないものとして扱う。
(下記はAnother「いないもの」ネタ)



遺伝子は存在していても、その暗号が読み取られなければ(使わなければ)、存在しないのと同義になる。

言うならば、X染色体1本が包帯でぐるぐる巻きのミイラ男状態にさせられ、遺伝子の読み取りができないようになっている(あくまでもイメージです、笑)。そのしくみは専門的になりすぎるのでここでは触れない。

http://ja.wikipedia.org/wiki/X染色体の不活性化

では、細胞中の2本あるうちのどちらのX染色体が眠る(不活性化する)のであろうか。

女性がもっている2本ある染色体は父母から1本ずつもらったものである。
勿論、その2本は異なった遺伝子型をもった人間からもらったのだから、当然異なる。

そして、その2本のうちどちらが細胞中で不活性化するかは、ある程度発生の進んだ段階で個々の細胞でランダムに決まるようである(ランダムに決まる事の合目性はよく分かっていない)。

つまり、ある細胞では父親由来のX染色体が、別の細胞では母親由来のX染色体が不活性化する。
ということは逆に言うと、使われているX染色体は、前者なら母親由来のもの、後者なら父親由来のもの、ということになる。


その後、その細胞の子孫(つまりある一群の細胞集団のかたまり)ではその不活性化すると決まった方が必ず不活性化する。


そのため、X染色体上に乗っている遺伝子においては、メスは細胞集団としてはモザイク状態なのだ。
もし、X染色体上に皮膚の色を決める遺伝子、たとえばメラニン合成酵素の遺伝子があったとして、父親が肌黒気味の遺伝子、母親が肌白気味の遺伝子だったら、女性の肌はまるで二色の白黒牛のごとくまだら模様になっていた筈なのだ。

他の哺乳類では毛並みの色に関わる遺伝子がX染色体上に乗っているものはある。
身近な動物では猫。
三毛猫の模様をもたらす遺伝子がたまたまX染色体上に乗っているため、メスの三毛猫はランダムなまだら模様になる。




そういう遺伝子が人類の場合にX染色体上になかったのは幸いである。
もしあったら、それこそ、フライヤのような悲劇に見廻れた女性が数多く生まれただろう。
顔のぶち状態で人としての美醜が決められるような。。


2012年5月12日土曜日

オスも役立ちまっせ。

なぜ男がこの世に存在する必要があるのか?

という問 (勿論、生物学的意味で)が唐突と感じなかった人は、いい線いっている。

なぜ性があるのか?

と問い直そう。

つまり、「なぜ男がこの世に存在するのか?」という問いと「なぜ性があるのか?」という問は同義なのである。

あのマリアさまが行った奇跡「単為生殖」(処女懐胎)。

男と交わらないで子を為す。

しかし、これは生物界を見渡せば奇跡でもなんでもない。

そのような生物は自然界に巨万といる。同じ脊椎動物でもトカゲの仲間はメスだけで卵を産むこともできる。アブラムシ(アリマキ)も食べ物が豊富にある時はメスだけで子を産んで増える。
オスは要らない。

植物では、ジャガイモの塊茎、チューリップの球根、ヤマイモのむかご、竹の地下茎なんぞは当たり前。

子孫(自分の遺伝子)を数ふやすという点においては単為生殖のほうがはるかに効率がよい。

なぜならば

(1)子供を産まないオスが半分もいる有性生殖(オスメスで子をなす)の効率は半分。自分の子供が全員メスで、メスだけで子供が作れるなら孫は二倍になる。

(2)自分の遺伝子を全て子供に伝えられる。有性生殖では自分の遺伝子の半分しか子に伝わらない。孫に至っては自分の1/4の遺伝子しか伝わっていない(それなのに孫は可愛いらしい)。

ここまでを考慮すると、子供を二人ずつ作ると仮定すると

無性生殖では子の代には、1 コピー × 2人=2 コピー の遺伝子が残る。
孫の代には1コピー × 2^2 (2の2乗) =4 コピー の遺伝子が残る。

有性生殖では子の代には、1/2 × 2人=1 コピー の遺伝子が残る。
 孫の代には、1/4  × 2^2 =1 コピー の遺伝子が残る。
常に1コピーが残るのみ。

さらに、

(3)異性とつがうまでにかなりのエネルギーと時間を費やす。

(4)その上、下手して異性を獲得できなければ子が生せない。あぶれたらアウト!バッドエンド。

という過酷さを加点したら、絶対的に遺伝子残すなら、単為生殖! ということにある。


ではその有性生殖のデメリットを凌駕するメリットとは? 

無性生殖は遺伝子的に均一な「クローン」で子孫を増やすことに他ならない。

遺伝子丸々を子に伝えるということはそういうことである。

つまり、ヒトで言えば、自分と全く同じコピー人間をどんどん産むということ。

それに対して、有性生殖は個体同士の遺伝子が常に世代更新の時に混ざり合う。

「みんなちがって、みんないい」

これが感覚的なことに留まらず、生物学的に言ってもそうなのである。

違う事がよいのだ。

今もっとも有力な仮説は、病原菌との果てしない戦いが有性生殖を進化させたというものである。

病原菌、特にウイルスの変異の早さはハンパない(これの原因についてはいずれまた)。

もし、ある個体にかかりやすい病原菌が出現したとき、もし同じ遺伝子をもったクローンだと全ての個体が次々と感染し全滅しかねない。

19世紀初頭アイルランドを襲った病原菌によるジャガイモの全滅による大飢饉。600万以上いた人口が飢餓と海外脱出で半減した。これは単一品種しか栽培されていなかったため、遺伝的に均一だったことが病気の拡大を促したといわれている。

http://ja.wikipedia.org/wiki/ジャガイモ飢饉

人類ももし単一のクローン家系しかいなければ、とっくに病原菌にやられてしまっていたことだったろう。

生物は病原菌との戦いのために次々に多様性を獲得せざるを得ない。変りつづける、走り続けなければ、病原菌という鬼につかまってしまう、鬼ごっこなのである。これは「赤の女王仮説」と呼ばれる。

http://ja.wikipedia.org/wiki/赤の女王仮説

これまで地球上に誕生した生物の99.99%は絶滅したとどこかで読んだが、この中には、勿論気候の変化についていけなかったもの、生物間の生存競争に敗れたものもいたろうが、この病原菌との赤の女王仮説が正しければ、病気により絶滅した種も相当数いた筈だ。

有性生殖では半分の遺伝子をランダムに子供に伝えるので(ヒトでは23対ある染色体の1対を子にランダムに渡す)、子に伝えられる遺伝子はそこで多様性を獲得する。そして、異なる遺伝子組成の異性と遺伝子を混ぜ合わせて子供をつくる。同じ夫婦であろうとも、偶然に同じ遺伝子をもつ兄弟が生まれる事はなく(一卵性双生児でなければ)、子孫に多様性がこのようにもたらされる。

話しを戻すと、結論、オスは要る!

平時の時(病気が流行っていない時)には無駄な存在だが、いざという時(病気が流行った時)には頼りになる用心棒、的な。
男は、女をいざという時(病気対策)のために守る番犬に過ぎない。
メスが雇い主で、オスは雇われ用心棒。

しかし、どんな番犬を飼うかで女の人生も変わる。
忠犬は大事、かわいがってあげて欲しい。



2012年5月10日木曜日

男の内面

SRYのオス化スイッチによる男性ホルモンの合成は、外見だけには留まらず、内面(心を司っている脳の働き)も男性化させる。

外形に二型あるように、脳にも二型(オス型、メス型)が歴然としてある。
体にオス用、メス用の体があるように、脳にもオス用、メス用がある。
オスはメスが好きになり、メスはオスが好きになる。
教えられなくてもそのようになっている。

そのような生得的な行動を本能的行動と呼ぶが、これは紛れなく脳にオスメス二型あることを示している。

脳を二型化しているものもホルモンの働きであり、胎児(オス)では男性ホルモンによるまず外形がオス化し、その後脳もオス化する。

外形のオス化と心のオス化の時期のずれているため、うまく男性ホルモンがどちらの時期にも働いてくれないと、外形も脳もオスになってくれない。

性同一性障害で、体は男で心は女、というのは、そのように脳のオス化が正常に進まなかった場合に起こると考えられている。

そのように、胎児側に問題があり男性ホルモンがうまく働かない場合だけでなく、母胎側に原因がある場合もある。母胎からは通常あるレベルの女性ホルモンが送り込まれてくるが、ある種のストレスが母胎に過度にかかり、母胎の女性ホルモンレベルが増加するとより多くの女性ホルモンが胎児に流れ込む。

実は、男性にも男性ホルモンがあり女性ホルモンもある。女性も同様である。
ただし、男性では 男性ホルモン>女性ホルモン
女性では 男性ホルモン<女性ホルモン
なのである。

このバランスが重要だとすると、母胎から過度の女性ホルモンが男子胎児に流入するとへたをすると女性化する危険性が高まる。

生物学的性別が女性で性の自己意識が男性である場合、も同様にある時期胎児中の男性ホルモンのバランスがなんらかの影響で増えために、脳が男性化に傾いてしまったと考えられる。


生物の男と女はかように体も心も定まったものではなく、揺らぎやすいものなのである。


細胞の仕組み、器官のしくみの巧妙をみるにつけ、なぜ、こんな危なっかしいシステムで次世代の子孫が左右されるようなシステムになっているのか不明である。男女に01で必ずきれいに制御されるシステムがなぜ進化の過程で得られなかったのか。


性同一性障害に進化的な合目性があるのか、はたまた、何か裏に隠れたメリットがありトレードオフの関係にあるのか?


ワニのような爬虫類は卵の孵化時の温度でオスメスが決まる。勿論、オスメスになるための遺伝子はあってもそれが温度の影響を受けるのだ。魚類の中には成長の度合いで性転換するものがある。


生物学は合目性を問う、問える学問である。


うつろい易い性の問題はまだ解決されてはいない。





2012年5月4日金曜日

SRY遺伝子よ、ちゃんと働いてくれ!

先日の授業の続き

男の子の胎児の場合、SRY遺伝子によりオス化スイッチONということになり男性ホルモンを作られ始め、外形がオス化してゆく。

ほとんどの場合このようにうまくいく。

しかしこの時にうまくSRYが働かずスイッチが入らないと、男性ホルモンがちゃんと作られない。これはかなり大変なことだ。

人には遺伝子がおよそ23,000あり、どの遺伝子が大事でどの遺伝子が大事ではないということはないのだが、でもやはりこれがちゃんとしてくれないと困る、という遺伝子はある。
SRYもその一つ。

これがうまく作動してくれないと、Y染色体があってSRY遺伝子はあるのに、オス化しないということになる。これは大変なことだ。遺伝子形は男なのに、外形は女ということになる。外性器と内性器が一致しない事もある。

SRY遺伝子異常が原因でなくとも男性ホルモンがうまく働かなければやはり外形はオス化しない。


(もやしもん、結城蛍ちゃん、男の娘(こ)です)



赤ちゃんは生れて外性器で二分化されて、それが戸籍に固定化される。

女性のスプリンターの中に染色体XY(男性型)保持者が見出されることがある。
実際にはXYなので、真性の女性に比べれば、そういう人は男性ホルモンが多かったりするため、運動能力が相対的に高い。なので、運動能力の高い女性の中にはそのようなケースの者の割合が高くなる。

勿論、本当は男性なのにそうとは知られずに女性として一生を送るものも多かったであろう。

これを読んだ女性が「私もしかして男?」心配するのも本意ではないので、一言。

真性の女性は思春期にちゃんと第二次性徴がくる(胸が大きくなったり、生理がきたり)。
しかるべき第二次性徴があったなら、XXの真性の女性である。

(捕捉)半陰陽(ふたなり、アンドロギュヌス)

1. 外性器の二型といっても、男性ホルモン、女性ホルモンのバランスにより、その中間型になることもあり(そして様々な中間型があり)、それが半陰陽ということになる。


2. 女性半陰陽(XXでありながら外性器が男性)というものもある。これに関してはそのようになる原因は様々考えられているようである。例えば母親のホルモンバランスの異常で母親から男性ホルモンが比較的多く胎児に供給されて男性化してしまうこともあるであろう。




IS (アイエス) ~男でも女でもない性~ストーリー

「IS」とは「インターセクシュアル (intersexual) 」の略である。「半陰陽」とも言い、遺伝子、染色体、生殖器(性腺、内性器、外性器)などの一部または全てが非典型的であり、身体的な性別を男性や女性として単純には分類できない状態を指す(詳細は半陰陽の項参照)。本作はそういった身体的特徴を持つ人々を主人公に据え、彼(彼女)らの心の動きや、その周囲を取り巻く環境を描いた作品である。


2012年5月2日水曜日

男は男として生まれるわけではない。男になるのだ。:SRY遺伝子

昨日授業で、男はもともとは女の子だった、と切り出すと、一同シーンとする。

しかしこれは真実。

高校で習うように哺乳類では

オス X/Y
メス X/X

なる「性染色体」を持っている。

そして、高校でY染色体をもっているとオスになると習う。でもその理由は教えてくれない。

考えてみれば、Y染色体上にオスをオス足らしめる遺伝子があるんじゃね、と気付く。

そのように、研究者は古くからその存在に気付いていたが、この原因遺伝子はなかなか見つからなかった。見つかったのは最近のこと。

(http://www.biological-j.net/blog/2008/02/000396.htmlより転載)

末席にいるのがY染色体。そのお隣のX染色体に比べれば、なんとはかない存在か。

これはたとえではなく、男は染色体的には脆弱なのだ。


Y染色体は太古(哺乳類が誕生した恐竜のいた時代)、X染色体と同型であったと考えられている。その痕跡として、X染色体とY染色体には似た配列が現在でも残っている。

しかし、男性化を決める遺伝子がY染色体に取り憑いたため(これは比喩でもなんでもなく、性を決める遺伝子はいわばババ札。)、その疫病神のおかげで、零落の一途を辿ったきた(今後も辿る)と考えられている。

その原因(事情)には2つある。

一つ目の事情とは、

Y染色体はいつも細胞内でひとりぼっち、だからと言うもの。

その他の染色体(性染色体以外のいわゆる「常染色体」)をみれば、全て2本ずつセット(「相同染色体」とよぶ)になっている。

X染色体も男性の体にある時は一つきりだが、女性の体にある時は2本揃う。

染色体は、紫外線や活性酸素(酸化力の強い酸素化合物、例えば過酸化水素H2O2のような)により、常に傷つけられている。記憶を頼りに書くと、細胞中で一日10万ヶ所も染色体上のDNAはダメージを受けているという。

そのほとんどはありがたいことにすばやく修復されるわけだが、その修復に、2本ずつセットになっているところの相同染色体が利用される。

相同染色体の片方が傷ついたら、無傷の方のもう一つの染色体の遺伝情報(DNA配列)を元にして修復する。

つまり、その意味で染色体は2本揃っていて遺伝子情報がうまく保たれるようになっている。

相同染色体を持たないY染色体は、そのためダメージを蓄積しやすいのだ。

これが、Y染色体が矮小化したしくみ(近接的要因)と考えられているもの。


二つめの事情は、

Y染色体は、細胞にとって扱いにくい邪魔な存在だということ。

染色体上の遺伝子から遺伝情報が読み取られて、タンパク質がつくられるのだが、男と女で染色体の数が違っていると、作られてくるタンパク質の量に関して、両者にばらつきができて細胞としてはまことに都合が悪い。

といっても、通常の常染色体は男女とも二本ずつあり、その心配はない。

困ってしまうのは、性染色体の場合。

男には、女にはないYがある。

つまり、Y染色体から遺伝子がガンガン読み取られて、タンパク質がつくられたら、それは男にはあって、女にはないもの、ということになりかねない。

そのため、細胞にとってはY染色体は却ってない方がいいくらいの鬼子なのだ。
(女性の場合、X染色体が男性の二倍あるのも大問題で、これに関しては巧妙なからくりによりその困難を女性は回避している。この話題はいずれまた)

ただし、精子をつくる際の「減数分裂」時にはX染色体との対合に必要となるため、形ばかりのお飾り状態としてあればいい、的なものと言える。

なのでY染色体の矮小化は、細胞にとって頭を抱える大問題、の真逆で、願ったり叶ったり、という裏事情がある(いわゆる「遠隔的要因」)。


Y染色体唯一の存在意義は、男性化するためのスイッチを入れるとされる遺伝子「SRY」を載せていることだ。

SRY: http://ja.wikipedia.org/wiki/SRY


つまり、Y染色体にはSRYさえあればいい、他は却ってあったらジャマ!、くらいに細胞は思っている節がある。

SRYが太古Y染色体に憑依したために、ああかなしやな、Yはその疫病神遺伝子によって風前の灯火状態となりはてにけり。


さてやっとのことで、題名の話題にたどり着いたが (^ ^;

その唯一重要なSRY遺伝子だが、男性の場合、まだお母さんのお腹にいる間にこのスイッチがONになり、男性ホルモンをみずからガンガンつくりオスになるのだ。

というと、

「先生、では、男の子はオス化する前はどうなっていたんですか?」

という生徒からの質問がここで欲しいところ。

こういう、授業の流れを読んだ当意即妙な質問を生徒がしてくれると教師稼業も楽なのだが(笑)


受精卵が胚発生を始めて数週間後からSRY遺伝子が働き出すのだが、それ以前は男の子は女の子だったのだ。

人を含めた哺乳類は、胎児はメスとしてまず発達する。そのまま、SRYによるオス化のスイッチが入らなければ、メスとして生まれる。これが人でいう女の子だ。

要するに、哺乳類の胎児の初期設定(デフォルトの状態)はメスなのである。


ではなぜ、このシステムが哺乳類で採用されたか?

その逆のシステム、オスがデフォでメス化する遺伝子をもったものがメスになる、というシステムを採用していても良かったのでは?

実は、メスデフォシステムには必然性があると考えられている。

哺乳類では胎児は常に母胎から女性ホルモンの攻撃に曝されている。臍の緒から血流にのって栄養分とともに女性ホルモンもやってくる。

もし、オスがデフォで胎児に女性ホルモンがあるとメスになるということになっていたら、全ての胎児は母親の女性ホルモンにより全員メス化してしまうことになりかねない。

もう一つ理由があるとすれば、

オスは付属物にすぎないからということ。

メスだけで子供をつくる動物、生物は多くいる。
つまり、生物がその気になれば作れるのだ(そのシステムを持とうとすれば持てる)。

オスはなくてもいい(あった方がよいのは確か)。
つまり、生物はメスが基本型で、オスはメスを改変してつくられたオプション的なものと捉えても良い。

というように、Y染色体が情けなければ男も情けない、そんな状態なのだ。
という、自虐的国家史観のようなことになってきた。


しかし、それを弁えた上で、男性諸君、敢えて言おうではないか!

男は男として生まれるわけではない。男になるのだ!


2012年5月1日火曜日

細胞の寿命:(その1 分裂寿命)

細胞の寿命の話しでちゃんと書いていなかったので、補足する。

細胞の寿命とかいう時に2つの寿命の定義がある。

一つは分裂寿命。細胞が何回分裂できるか、というもの。
ヒトの正常細胞をシャーレ等に取り出して培養すると、ある決まった回数しか分裂できない。
これは発見者の名前を取って、ヘイフリック限界と呼ばれている。ヒト細胞の場合は50回程度。

http://ja.wikipedia.org/wiki/ヘイフリック限界

これには分裂ごとに短くなる染色体末端のテロメアと呼ばれる部位の短縮がその要因とされている。

寂しい話しだが、お年寄りから採取した細胞は赤ちゃんから採取した細胞より分裂回数が短い。
これはすでに生体内で分裂を繰返しているため、その分裂回数を使ってしまっているため、と考えられている。

我々は、50回分の回数券を持たされて産まれて、それを使い続けて後残りはいくつ? 状態ということだ。

しかし、それを使い切って死ぬ人はいないようだ。つまり、120才になっても回数券はまだ残っている。

つまり、テロメア短縮がヒトの細胞の、ひいては個体の死の上限を定めているわけではないと考えられている。それなのに死ぬということは、別の要因がボトルネックになっているということ。


私はモデル生物の単細胞生物の出芽酵母(パン酵母、ビール酵母)を研究に使っている。

興味深い事に、単細胞生物にも分裂寿命がある。



出芽酵母は、母細胞から出芽で娘細胞が生れて、それが育ち独り立ちして一つの細胞になる。

このような、非対称性分裂と呼ばれる分裂をするため、どちらが元の細胞であるか区別がつく。

研究者が調べたところ、母細胞はたかだか20〜30回くらいしか子供を産めないことが分かった。

つまり、それだけの娘細胞を産むと母細胞はその後分裂できずにいずれ死ぬのである。

この場合の酵母の分裂限界はテロメア短縮が原因ではない。
そもそも酵母はテロメアが短縮しない。

原因は、前回述べた活性酸素による細胞内成分の劣化等によるものと考えられている(それを示す研究がある)。

それでも酵母が何億年も生き続けられているのは、次々産まれてる娘細胞がちゃんと子孫を増やしてくれるからである。


顕著な非対称性分裂と言う様式をとるため出芽酵母で研究が進んでいるが、出芽酵母だけが特殊だというわけではなさそうで、恐らく他の単細胞生物でも系譜をちゃんとたどればそのような限界があるのだと思う。


太古、単細胞生物でこのように獲得された非対称性分裂が、多細胞生物になるとき細胞の分化に利用された。一つの受精卵が分裂して多くの細胞になるとき、非対称性分裂のおかげで子孫の細胞にバラエティーができる。

幹(かん)細胞という細胞を生み出す細胞があるがその細胞自身は未分化の状態で分化後の細胞が果たすべき役割を担えない。が、分化した細胞を作り出すことができる。しかしその場合にも、幹細胞は幹細胞のまま留まる。つまり、未分化状態の細胞が分化した細胞を一つ生み出すことができる。これは明らかに非対称性細胞分裂を利用した細胞の産生である。

最近の話題では、癌にも癌細胞を次々産み出す幹細胞があるのでは言われ始めている。
(癌細胞の不死性に関してはいずれまた)


このように見てくると、単細胞細胞に寿命があっても問題はない。
敷衍してかんがえれば、多細胞生物においても、細胞に分裂寿命があったとしてもそのせいで生物個体が寿命があったとしても、死ぬ前に子孫を残せていれば問題はない、ようにできている。