ヒトの赤ちゃんは未熟で産まれてくる。早産と言ってもいいくらいだ。
泣くことしかできない未熟状態のヒトの子に比べて、出産後直ぐに立ち上がれる馬の子では
ウマ
成馬体重 500kg
出生時体重 50~60 ㎏
と、馬は大きく成熟した子を産んでいることが分かる。
ヒト(日本人)
成人体重(女性)50 kg
出生時体重 3 kg
難産になっているヒトの母親としてはもっと早く子供が小さいうちに産みたいところだ。
だが、現在でも未熟なのにこれ以上早く産み落とすと、赤ちゃんが出産後育たない危険性が高まる。
そう、赤ちゃんには奥の手がある。
それは死んでしまうという手だ。
これはすごく危険なカードで本人にとっても最後の切り札であるが、このカードを胎児はちらつかせながら母親に譲歩を迫っている(おっと、これはどこかのならず者国家が他国を威すのに似ている)。
「あまり早くわたし(ぼく)をお腹から追い出すなら死んじゃうけど、それでもいいの?」と。
自分の遺伝子をもった我が子は、自分の遺伝子を伝えるためのノアの方舟である。
大事にせざるを得ない。
一人っ子政策の中国では、子供は王様のごとく大事にされるため増長して「小皇帝」と呼ばれるが、しかし全ての生物の子供は小皇帝なのだ。
親は子に勝てない。親は子にかしずく僕(しもべ)なのだ。
とまあ、ぎりぎりの母親と胎児のせめぎ合いの末、今の状態で母親は子供を産むしかない訳だ。
こう考えると、ヒトの胎児の2大特徴、
1. 大きい
2. 未成熟
も腑に落ちる。どちらも胎児の関連した戦略上にある。
つまり、ヒトの胎児の戦略は、胎内で大きくなりたいけど、早く成熟してしまうと早く追い出されるので、敢えてここは未熟のままいておこう、という戦略である。
(いつまで親のスネをかじっているつもりだ!)
まあ、なんと狡猾か。
この胎児の作戦が曲がりなりにも成功しているのは、必要条件として、ヒトが食物連鎖の頂点に立つ生物となったことと、ヒトの親が未熟な赤ちゃんを保育できたことが幸いした。
馬などの野生動物は生れてすぐに歩けなければ天敵にやられる。
猿なども、赤ちゃんは自らの力で母親の毛にしがみついて行動する。
直立二足歩行することができたために母親の手があいて、赤ちゃんはお母さんがだっこして運べるようになった。ヒトは定住することで、安心して子供を育てることができた。
*ヒトの赤ちゃんが手を握ったまま産まれてきて、産まれた後もしばらく手を握っているのは、母親の体毛にしがみついていた頃の名残。手を開いたまま産まれてくる赤ちゃんもいるが、昔だったらそういう赤ちゃんは育たなかったろう。今は育ってしまうため、今後そういう赤ちゃんがますます増えるかもしれない。
*未熟な赤ちゃんが産まれても母親がだっこするため、赤ちゃんが摑まるための体毛が母親に失われても問題がなかった。赤ちゃんの戦略で、女性は脱毛できたわけだ(笑)
さらには、乳児は母親と父親に、この手で我が子を抱ける喜びという報酬を与えることで、巧みに親を操作して自分にかしずかせている。
この母と子の争いを描く『子宮の中のエイリアン』はお薦め。
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