昨日の続き
このヘモクロマトーシスの原因遺伝子としてはHFE遺伝子が知られている。
血液中の鉄運搬タンパク質(トランスフェリン)は細胞膜上にある受容体と結合して細胞に鉄を受け渡す。
しかし血液中のHFEはこの受容体と結合しトランスフェリンが受容体に結合することを邪魔して鉄の過剰供給を防ぐ。
HFE遺伝子が変異すると細胞内への鉄の過剰蓄積が起こるというわけだ。
成人の体内鉄分は1〜3 gだが患者は20~40 gにも達する。
そして西欧人にこのヘモクロマトーシスが多い。
それは1347年にヨーロッパで大流行したペストが原因と考えられている。
1347年にヨーロッパにペスト(黒死病)が吹き荒れて人口の三分の一の2500万人が死んだ。
イタリアのメッシーナ港にやってきた一艘の船が病気を運んできたとされる。
生き延びたわずかな船員からその家族へと病気をうつすと三日後には家族揃って死んでしまった。
死者は打ち捨てられてその死人をネズミが食べて、そのネズミのノミを通じて、別の人に伝播した。
主にペスト菌に感染して死んだのは健康な成人男性だった。
子供、老人、女性は鉄分が不足だったために、ペスト菌に感染しても体内で増えられなかった。
ペスト菌は白血球の一種(マクロファージ)に感染して増殖する。
ヘモクロマトーシスの人は、幸いなことに肝臓等に鉄を多く蓄える一方で、そのあおりを受けてマクロファージでは鉄分が低下する。
ヘモクロマトーシスの人は、ペスト菌がマクロファージに感染しても鉄分が少なかったために菌が増殖しにくかったため死ににくかった。
このペスト菌による淘汰により、ヘモクロマトーシスの遺伝変異遺伝子をもつ人がより多く生き残り、比率が高まったと考えられている。
つまり、ヘモクロマトーシスは厄介な病気ではあるが、ある局面では有利な遺伝変異というわけだ。
禍福は糾える繩の如し。
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