2012年7月19日木曜日

ミトコン(7)わたしをうみにつれてって

外国への引越しはやっぱりそれなりに大変だった。


ミトコンドリアから核へ遺伝子が引越するにはそれ以上に骨が折れるだろう。

隣町に転校するのとはわけが違う。

(これでいて謎の転校生役もけっこう疲れるんですよ、ふっ)

DNAが運良く核に移動して核ゲノムに組み込まれたとしても、それが転写されなければ遺伝子として機能しない。

つまり、核ゲノムに引越する際に、たまたま適当なプロモーターの後に挿入されなければ転写されない。
(もしミトコンドリアの遺伝子がプロモーターを伴って核に移ったとしても、そのプロモーターは原核生物タイプのため使い物にならない)。

しかし、それだけではまだ足りない。

ミトコンドリアにタンパク質が運ばれて取り込まれるためには、「わたしをミトコンドリアに連れてって」シグナルが必要。

*解説しよう。細胞質で合成されて、核、ミトコンドリア、葉緑体に運ばれるタンパク質には行き先表示の暗号がタンパク質中に含まれている。専門用語でプレシークエンス、シグナル配列などと呼ぶ。


http://www2.kpu.ac.jp/life_environ/cell_genome_bio/nkubo_jp.html

もともと遺伝子がミトコンドリアにあった時にはプレシークエンスは必要なかったので、当然そのための暗号はタンパク質中にはない。

それが、核に移動した後に偶然にそれを獲得したものだけがミトコンドリアに入ることを許可されるということだ。

こんな偶然、本当に起こるの?

しかし生物の様々な進化を実際目の当たりにすれば、このくらいの僥倖を待つくらいのことは気長な生物進化にとってはへっちゃらなのであろう。

ミトコンドリアから核へ遺伝子が移る場合には

①ミトコンドリアに遺伝子Aが存在する。
②ミトコンドリアに遺伝子Aがそのまま存在したまま、そのコピーAが核ゲノムに挿入される。
③ミトコンドリアに遺伝子Aがそのまま存在したまま、そのコピーAが変異してミトコンドリアで機能できるタイプA'になる。
④ミトコンドリアの遺伝子Aは失われ、核ゲノムにA'だけ残る。

という手順になる筈である。

核コードの遺伝子がちゃんと機能するようになるまで、元のミトコンドリアの遺伝子Aは捨てられない。

動物の場合には、すでにミトコンドリアの遺伝子のほとんどはお引越が終わっているが、植物では比較的まだ多くの遺伝子が残っており、お引越の途中の過程が解明できるのではと研究が進められている。


同様に葉緑体からもDNAが核へ移っている。

タバコ一株でつくられるおよそ100万個の種子のうち60個の種で1つの遺伝子の移転が現在進行形で観察される。

(1/16,000個の種の割合で葉緑体の遺伝子1個が核に移っている)

これをみると、進化はなだらかに起こっているのだな、と感じる。

(わたしをうみにつれてって)


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