また細胞質タンパク質で、アポトーシス時専用に働くプロテアーゼであるカスパーゼもミトコンドリアの祖先が細胞に持ち込んだ。
ミトコンドリア外膜に穴を開けるBcl-2ファミリーのタンパク質も、ジフテリア菌などの病原菌のもつ細胞膜に穴を形成する毒性タンパク質と似ている。
これらの事実は、アポトーシスが本来宿主に備わっていたシステムではなくて、共生してきたミトコンドリアが宿主に持ち込んできたものであることを示す。
事実、病原性の細菌では宿主のアポトーシスを誘導するものがある。
病原菌の淋菌もその一つ。
(白血球に取り込まれた淋菌と細胞外の淋菌。淋菌はコーヒー豆を二つ重ねたような双球菌)
*エイズが出現する前は性病と言えば梅毒と淋病だった。淋菌はキスでも感染る。
淋菌は自ら白血球に貪食され液胞内に入り込み、Bcl1-2に似たPorBタンパク質を作り、宿主のミトコンドリアに挿入する。しかし、すぐにはアポトーシスを誘導しない。
ぬくぬくと宿主細胞内で生き延びて宿主を利用する。
しかし、なんらかの原因で宿主細胞が弱ってくると(宿主がつくるエネルギーのATPが減ってくるのを感知して)、アポトーシスを引き起こし宿主細胞を破壊して、宿主細胞の断片を栄養分にして脱出して別の細胞に感染する(阿漕という言葉を淋菌に授けよう)。
というのも、PorBはATPと結合する部位をもち、ATPと結合するかしないかで立体構造が変化するしくみをもつ。
宿主細胞のATPの量がある一定以上ある状態(つまり細胞が健全でATPをちゃんとつくってくれている状態)ではクローズ状態になるようになっており、そのためアポトーシスを誘導しない。
しかし、ATPの量が減ってくると構造変換を起こしてオープン状態になる。
ただし、PorBはBcl2-1と違ってミトコンドリア外膜に挿入される訳ではなく、ミトコンドリア内膜に挿入され、それによって内膜内外のプロトン勾配を解消してしまう。
それにより、ミトコンドリアが破裂寸前に膨らみ、結果的にミトコンドリア外膜からチトクロムcなどが漏れ出るのだ。
細菌のデロビブリオやリケッチアでも同様に宿主を狡猾に利用している。
このような宿主の細胞を殺しては次の細胞に移るという細菌のしくみが、共生後は宿主のアポトーシス(自殺願望)をミトコンドリアが代行するというしくみに変わったと考えられる。
ただし、共生が始まった当時はミトコンドリアがなかったので、ミトコンドリアを介しての上記の細胞死をミトコンドリアの祖先細胞が採用していたとは考えられない。別の仕組みで宿主を殺していたのであろう。
アポトーシス時にミトコンドリアは、そのシステムを利用されるだけ利用されて、結局は宿主細胞の都合で巻き添えにあって死んでしまう、いわば巻き込まれ被害者のようなものなのか?
(以下次号)
(巻き込まれはアニメの王道ってか、やれやれ)
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